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十二話 一人のための人形劇

 竜馬とその中にいるサッキュン、ミエナなど助けられた女達、そしてユナはミエナの希望で彼女の故郷である村に来ていた。

 任務を全うしたいユナは竜馬を一刻も早く連行したいがため、反対したが、竜馬の「人のために戦うのが騎士の一番の務めじゃねえのか」という言葉とミエナに気を使った女達からも頼まれて承諾した。


「……なぜ私が悪者みたいに」


 ユナが小さくぼやいたのを聞いて、竜馬は思わず吹き出した。


「貴様、何が可笑しい!」

「いや、悪い。ちょいとね」


 そう言いいながらも笑いを堪える竜馬をユナは睨みつけた。がそれを気にする竜馬ではない。

 ユナは諦めた溜息を吐いた。


 

 そんなこんなでミエナの村に到着した。竜馬たちが行ったのは墓を建てることだった。

 ユナが最初は反対していたのは村には殺された人間の亡骸が転がっていて腐臭を放っているかもしれないと考えたからだ。

 そんな有様を女達に見せるのは忍びないと思っていたが、幸か不幸か村人の亡骸はレイムにより回収され魔術の素材とされていたためユナの予想に反し、村には壊れ、焼け残った建物があるだけで他には何もなかった。


 亡骸がなくともせめて墓ぐらいは作って供養したいというのがミエナの願いだった。


 全員で手分けして、村に残された道具を集め、簡素な木を切り、削って作った十字架を亡くなった村人の人数分作り、村の外れに建てた。


 その際に竜馬は自分が不可思議な能力を持っていることに気付いた。

 それは自分が思い描いたものを具現化できるというものだった。

 たいして道具、とくの刃物の類が集まらず、どうにか調達できないかと考えた時にただなんとなく出来る気がした竜馬は何もない所から刃物を作り出した。

 竜馬としては明晰夢を見ているときに夢をコントロールする時のような感覚だった。

 思えばサッキュンと合体した時から色々出来るようになったような気がしていたが、さすがの竜馬も自分で自分に驚いた。

 当然、他の者達の驚きはそれ以上でユナに至ってはやはり魔術師だったかと剣を突き付ける始末だった。

 ユナに詰め寄られ、だからなんか出来そうでもやりたくなかったんだなと竜馬は自分に納得した。


 ただなんでも出来るわけではないようで、色々試している時間もやる気も起きなかった竜馬が分かったのは自分が出来ると思ったものしかできないということと、竜馬が作ったものは竜馬から二、三歩離れただけで消えてしまうということだけだった。

 結果、数人は竜馬の傍で、竜馬を取り囲むように作業をすることとなった。



 そんな一連の作業が終わると、墓にに花を供え、全員で手を合わせた。

 それが終わると竜馬は女達を休ませ、一人で来た道を戻ろうとしたところでユナに止められた。


「どこへ行くつもりだ?」

「魔術師がいた建物に戻る」

「なぜだ? 逃げるつもりじゃないだろうな?」

「あと一人埋葬しなきゃならない奴がいる。そいつをここに埋めるつまりはないし、女共に死体を見られるのも面倒だからな」

「それならば監視として私が同行しよう」

「いやあんたはここで女達を守ってやってくれ。別に逃げねえから安心しろ。作業が終わったらすぐ戻るさ。ミエナとの約束もあるしな」


 今までの軽く明るい雰囲気とは打って変わってどこか暗い、影が差したような雰囲気の竜馬にユナは戸惑った。

 思えば墓を建てる作業を始めてからのこの男は一切ふざける素振りを見せなかったとユナは思い出した。


「いいだろう。出来る限り早く戻ってこい。日が沈む前には女達を安全な場所に移動させたい」

「ああ。分かった」


 そう言って竜馬は地を蹴り、ユナの前から姿を消した。

 辛うじて目で追えたもののそのあまりの速さにユナは驚愕した。もし、あの時戦っていれば剣を持っていたとしても自分は負けていただろう。竜馬との実力差を思い知らされユナはいつの間にか強く拳を握りしめていた。



 魔術師の建物に戻った竜馬は階段の途中に横たわっていたレイムの亡骸を地上へ引きずりだした。

 すっかり冷たくなったレイムの亡骸に竜馬は一度目を落とし、スコップを作り出し、穴を掘り始めた。


 そうやって作業をしている間も、サッキュンは竜馬に何も話しかけなかった。

 意識に入り込んでいるサッキュンには竜馬の気持ちと思い描いた一つの記憶の光景が全てではないにしろある程度伝わっていた。

 そこでサッキュンは竜馬が世界で一番信用していると言った総司の姿を見た。

 その記憶の中の総司はひどく冷淡な目で死んだ男を見下ろしていた。

 詳しいことは分からなかったがサッキュンは悪魔であるにもかかわらず総司に恐怖を感じた。

 竜馬は世界で一番信用している男が見せたこの姿を見たとき一体何を感じたのだろうかと彼女は考えた。


 竜馬はレイムを穴に入れ、土を被せた。木の十字架を立て、少しの間だけに手を合わせた。


「花とかはやらねえぞ。頭も下げん。墓を建ててやっただけ有り難く思え。まああんたのおかげで最高の気分を味わえた。あんたがどんだけ屑でもそれに関しては感謝してる。後、命だけは助けるとか言っといて約束破って悪かったな。まあ天罰と思え」


 竜馬はレイムの墓に背を向け再び地を蹴って走り出そうとした時、何かの気配を感じ、その方向に向き直った。

 誰かが地下からの階段を上ってくる足音が竜馬には聞こえた。

 そして、現れたのは陶磁器や人形のように白い肌と長い銀色の髪をした少女だった。


「なんだまだ捕まってた人間がいたのか?」


 そう口に出しといて竜馬はその考えを改める。少女は黒い、ゴシック調のドレスを身に纏っており、竜馬自身が助けた女達の簡素な服装とは随分異なる。

 相手が何者か竜馬が考え始めた時、少女の口が動いた。


「……その声」


 少女の顔は無表情と言えるほど感情の起伏を見極めるのが難しかった。

 ただ竜馬は自分を見つめるその目の中に確かな怒り、自分への殺意が込められているのが分かった。

 

 



 気づけば竜馬の周囲をあらゆる姿形の人形が取り囲んでいた。

 ぬいぐるみのような可愛らしい人形からアンティークドールのようなものまでそれらの大きさも大小様々だった。

 その中でもシルクハットを被ったマジシャンのような姿をした人間よりも一回り大きい人形は少女を守るように竜馬と少女の間に置かれていた。その身体からは何本も糸が伸びており、その糸の先は少女の指があった。

 目を凝らせば宙に浮かぶ他の人形にも糸に繋がれているのが分かった。

 そしてそれら全ての人形には鋸などじつに猟奇的な武装がされていた。中には腹から丸鋸を生やしているぬいぐるみもあった。

 太陽がまだ上っているというのにその様は不気味としかいいようがなかった。


「(リューマなんかちょっとまずくない)」

「(だな。ミエナもいないし、一発でも食らったらまた殺しちまうかもな)」

「(そっちの心配!?)」

「(いやいやあんなので夜襲なんかされたらたまったもんじゃないし、むしろ陽があるうちに会えて良かっただろ)」

「(それはそうかもしれないけど)」

「(にしても話が通じなさそうだな。俺なんかあの子にしたか?)」

「(会ってすぐに殺そうとしてくるぐらいだし、あなたに相当恨みがあるんじゃないの?)」

「(まあ恨みは買いまくってるとは思うけど。さすがに今回は身に覚えが……)」


 竜馬達が頭の中で会話していると、少女が腕を動かし、指を動かした。

 すると、人形たちが一斉に襲いかかってきた。


 ある人形は凶器と化した包丁振りかざし竜馬の首を引き裂こうと飛び込んできた。それを竜馬は足を屈めて回避し、武器が仕込まれている人形を素手で叩き落とす気になれなかった竜馬は作り出した刀でその人形に繋がる糸を切断した。すると人形はそのまま勢いを失い地に落ちた。

 その様子を前後左右から襲いかかる人形の刃を地を這うように跳び出して回避しながら確認した。その際、マジシャンのような人形の姿が見当たらないことに気付いた。

 マジシャンドールはいつの間にか竜馬が回避しようとした場所に先回りしており、二本から四本に増えた腕にどこからか取り出したレイピアを持ち、跳んでくる竜馬目掛けて突き出した。

 しかし、竜馬の背から突如生やされた黒い蝙蝠のような翼が羽ばたき、砂煙を舞い上げると共に大きく方向転換したため、その剣は空を切り地面に突き刺さった。

 竜馬は砂煙が消えぬ内に人形達の包囲網をすり抜けた。


 そう竜馬の作戦は逃げの一手だった。

 今の竜馬は大分欲が満たされている。そんな状態でわざわざ戦おうとは思わなかった。


「逃げる気!」


 竜馬はようやく表情を変えて怒りを見せる少女の目がミエナ達の待つ村とは逆方向に向かう自分の姿を捉えたことを確認すると地面をより強く蹴って加速し、飛ぶように駆け、その姿を消した。




「(ありがとなサッキュン)」

「(これで少しは私への態度を改めてくれる?)」

「(ああ、見直した)」

「(えっ、うん。まあ、それならいいんだけど)」


 予想に反し素直な竜馬の返事にサッキュンはなんとなく恥ずかしくなった。

 それを感じて竜馬は笑った。


「(わ、笑わないでよ)」

「(はいはい)」


 しばらく進んだ後、竜馬は大きく迂回して、多少迷いながらもなんとかミエナ達が待つ村に戻った。

 




「思ったより早かったな」

「本当は三十分で終わらすつもりだったんだけどな」


 竜馬が村を出てから約二時間が経過していた。

 女たちと移動したときは魔術師の建物から村まで二時間はかかった。それを往復し、土を掘ってそこに人を入れて埋め、墓を建てる。それを二時間で終わらせたのだ。大分早い。


「なにかあったのか?」

「ちょっとな。迷ったし。ともかく日が暮れる前にさっさと行こうぜ」


 竜馬はあの少女が自分を追いかけているつもりで逆方向へ進んでいるとは思っているものの、万が一ということもある。

 だからこそなるべくなら早く遠ざかりたかった。


 なぜそう思うのか竜馬は考えなかった。

 考えたところでどうしようもないと分かっていたからだった。


「まったくよく疲れないでいられるものだ」


 ユナは呆れ顔で女達を呼びに行った。それに竜馬も続いた。

 竜馬が姿を見せると、ミエナが顔を輝かせてすぐさま駆け寄ってきた。

 そのまま抱き着いてくるかと竜馬は思ったが、一歩手前で思い出したかのように慌てて急停止し、竜馬へ伸ばそうとしていた手を後ろに引っ込めた。

 照れた顔で視線を逸らし、恥らいながらその場から動かないミエナを見て、なんとなく和んだ気になった竜馬は試しに悪戯心で彼女に近づき、抱きしめてみた。

 ミエナは驚きでその身を震わせ、顔を赤らめて俯いたが離れようとはせず、竜馬の胸に顔を埋めた。


「お帰りなさいリューマ様」

「おう、ただいま」


 そう言って竜馬はミエナの頭を撫でた。


「(随分懐かれちゃったわね)」

「(だな。まあ懐かれる分には構わんよ)」


 竜馬としても悪い気はしない。特に強い敵意を向けられた後となれば。


「さて、次はどこへ行くんだ?」


 竜馬はミエナの頭を撫でながらユナにきいた。


「近くに我が隊が構える野営キャンプがある。今日はそこで休ませた方がいいだろう」

「飯とか出るのか?」

「彼女たちにはな。貴様は事情聴取だ」

「おいおいそりゃあないぜ」

「好きにしろと言ったのは貴様だろ」

「いやまあそうだけどよ……」


 と、そんなわけで竜馬達はユナが所属する騎士団が構える野営キャンプへ向かうことになった。

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