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精霊のシジル  作者: 染料
一章
7/135

第六話 龍の炎



 魔石を動力にした車が開発されて久しいが、未だに民間の足は馬車だ。一日足らずの行程ならば幌の天蓋がついた広い荷馬車が主流で、相乗りが基本である。

 取り付けられた長いすの端に座ったアルクゥは乗り合わせた人々を眺めていた。

 壮年と青年の男性が二人、淑やかな身なりの老女が一人、娘が一人。御者を入れて計六人での旅路だ。街を出てしばらくは馬車の音だけしかなかったが、老女が「今日はお客が少ないわねぇ」と呟いたことで青年が身を乗り出した。暇だったのだろう、話の切っ掛けを捕まえて目が輝いている。


「知らねぇのかい婆さん。最近、ここいらじゃ盗賊が出てるんだぜ。それに昨日は西で魔物が出たらしい。ギルドと兵士の精鋭を蹴散らす程の大物だって噂だ」


 身に迫らない話だったのか老女は「そうかい」とだけ言った。青年は口をすぼめて不完全燃焼気味に座りなおした。


 港へは半日で着くという。


 アルクゥは微笑んで胸に手を当て、後ろへと流れていく風景を穏やかに見遣る。夜闇の絶望から抜け出して順調に帰路を辿っていることがアルクゥに余裕と自信を与えていた。そして小さな驕りも。

 ――大したことないじゃないか。


「なに笑ってんの?」


 しばらくしてその言葉が自分に向けられたものだと気付く。

 知らぬ間に全員の視線を集めていたアルクゥは少し俯いて恥らいをまぎらわす。左右に揺らした視線が壮年の男性とぶつかると、男性は鷹揚に微笑みを返してくれた。


「なんで恥ずかしがってんの? ま、いいや」


 声をかけてきた娘はからりとした空のような清々しさで疑問を引っ込め、長年慣れ親しんだ友人に接するが如くアルクゥに笑いかけた。


「同じ年くらいでしょ? ね、港になにしに行くの? あたしは買い物。お洋服とか、美味しい食べ物とかね。あっちで父さんが働いているから、ついでに会いにいってあげるの」

「あの……ええっと」


 娘の勢いにしどろもどろになっていると、横の青年が助け舟を出してくれた。


「一気に喋るなよ。困ってんだろ」

「そう? にしてもさ、魔物の話だけど。こっち側に出たわけじゃないのに随分大騒ぎだったじゃない? どういうことだろうね。強い魔物は住処に近付かなきゃ大丈夫だっていうのにさ」

「その住処から出てきたから騒ぎになってんだろうが」

「あのね、あたしはその子に話しているの」

「答えてやっただけだろ! 人の好意がわかんねぇやつだな」

「別に頼んじゃいないわよ」

「可愛くねぇ女」


 青年が不満げに唸ると、壮年の男性がたしなめる。


「失礼なことをいうのは止めなさい。悪かったねお嬢さん」

「気にしてないわ。おじさんは魔物について何か知ってる?」

「ああ、大騒ぎになっているのは魔獣が出たからだそうだ。それも空を飛ぶ種類のね。地を走るヤツとは違って、飛ぶヤツは行く先の見当がつかないから」


 まあ、と娘は口に手を当てる。

 魔獣というのは魔物の格を表す言葉だ。人家の木陰で見かけるような野生動物と変わりないものは小妖、強大だが無害なものは聖獣といったふうに、強靭さや知能、人間に対しての危険度を考慮して的確な格に当てはめられる。

 そして魔獣といえば危険度が高く獰猛な魔物に与えられる言葉だ。最上位のものなら小さな街なら簡単に滅ぼす。

 アルクゥは思わず空を覗いて魔獣の影がないか確認し、青々と広がる晴天を見て胸を撫で下ろした。それを見ていた男性は眉根を下げる。


「すまない。脅かしてしまったようだ」

「いいえ、私が臆病なのです」


 壮年の男性は申し訳なさそうにしたままアルクゥと同じように外を覗いてみせ――表情を凍りつかせた。何、とアルクゥが体を強張らせるのと対照的に青年と娘は本気にしていない。


「冗談は止せよな。悪趣味だぜ」

「そうよおじさん。そんなことしても引っかからないわよ。……鳶かしら?」


 甲高い音が一帯に長く響き渡った。

 確かに鳶の声ににているが、この空を裂くような大声量は何だろうか。


「あの、何が」

「……盗賊だ」


 男性は空ではなく馬車の立てる土ぼこりの先を凝視して呟いた。


「え?」

「御者さん、盗賊だ! 魔物に乗ってこっちに来ている!」


 男性は前を振り向いて叫んだ。逆にアルクゥたちは丸く空いた幌の隙間に視線を走らせる。

 存外、近い距離に馬のような影があり、背に乗る人影がある。その手にあるのは――剣だ。

 悟られたことを察したのか相手は速やかに距離を詰める。すると土煙に負けない色をした鮮やかな瞳を持つ魔物がその全貌をさらした。


「魔物だ! ケルピーに乗ってるぞ!」


 馬の体色は灰色、鬣は黒にも見える深い緑、そして一瞬跳ねあがった尾は魚。盗賊が駆る魔物はケルピーだった。幻獣種で魔物としての格は中位だが騎獣とするなら最高の一つである。

 馬車がぐんと加速して荷車部分が悲鳴をあげる。全員が必死になってしがみ付いている中、御者の切羽詰った声が響いた。


「端に寄って背中を張り付けていろ! 荒っぽくなる……くそっ待ち伏せか!」


 しがみつけ、と轟いた怒声に、アルクゥは幌を張った枠組みを握りなおす。その瞬間大きく左に傾いた馬車は何かにぶつかり、横転を免れて持ち直す。


「徒歩のクソ野郎共は撒けるが、魔物は無理だ! 男が何人か乗っていたな? どうにかして騎手を落とせ!」

「武器なんてないぞ!」

「いいから何とかしろ!」


 青年は焦ったように馬車内を何度も見回して工具箱を手に取った。

 投げつけようと思ったのか外に向かって振りかぶるものの、すぐに顔を引っ込めてこちらを振り返り、言葉をなくしたように口を数回開閉させる。


「なに? なんなの?」

「っ……ひ、火だ!」


 声が事態を知らせたときには遅かった。

 幌が燃え上がり天井が真っ赤に染まる。アルクゥは咄嗟に降り注いだ熱気に頭を抱える。


「天蓋を外せ!」


 馬車は火を背負って走っている。このまま放っておけば全員焼死だ。

 アルクゥは幌を支える枠組みを外そうとするが、仕組みが分からないので外れない。


「キミは伏せていなさい!」


 壮年の男性が立ち上がる。アルクゥは頭を押さえ込まれて地面に伏せた。火から遠ざけてくれたのは娘で、彼女も震えていたがアルクゥよりも余程しっかりとしている。


「大丈夫、頭を低くして、布を口から離さないで。おじさん、早く!」

「待て、もう少し……やった!」


 幌が外され、火を纏いながら後背へと転がる。

 しかし脅威は未だに去ろうとはしない。盗賊は巧みな手綱さばきで幌を回避し、一定の距離を保ってピッタリとついてくる。追いつこうと思えば簡単だろう。なのにそうしない不自然さにアルクゥは気持ち悪さを覚えた。


「曲がるぞ! ……畜生が!」


 御者が怒鳴る。

 反射的に前を見ると、緩やかな曲がり角の先に切り倒された木を見つけた。

 ――あれが狙いだ。

 間に合わない。


「前! 木が!」

「わかってる!」


 御者は大きく手綱を手繰った。二頭の馬は急停止し、馬車はその内の一頭を巻き込みながら横に滑り、倒木にぶつかって止まる。ケルピーに跨った男が「かかったぞ!」と声を張ると、物騒な成りの男たちが茂みから顔を出し勝利の快哉をあげる。

 馬車はまんまと追い詰められ、罠にかけられたのだ。


「さっさと降りろ。全員だ!」


 武器を持つ屈強な男たちに誰も抵抗などできない。

 馬車から降り、アルクゥは引き立てられるまま地面に膝をつく。

 盗賊の集団は七人。置き去りにした者もいるので十人以上はいるだろう。ケルピーに乗っていた男がリーダー格らしく、指示を出していた。それからアルクゥたちを眺め、馬車を眺め、首を振る。


「商人の馬車じゃないな。積荷もない。街にいる馬鹿はどうしてる! 狙う馬車を選別して連絡をいれろと俺は言ったはずだ!」

「まあ、いいじゃねーか。ジジイとババア以外は売れるだろ? な?」

「規制が厳しくこのご時勢で人身売買か? いいだろう。お前が売ってこい。ただし危険は持ち込むな」


 リーダーの機嫌を取り成そうとした髭面の男は情けない顔をした。

 他のメンバーがそれを笑い、「じゃあ売れない二人はどうする」と尋ねる。


「殺せ」


 アルクゥは壮年の男性と老女を振り向く。

 直後、鋭利な鋼色が次々と二人を刺し貫いていった。老女は二度痙攣して動かなくなり、男性の裂かれた喉からはひゅう寒気がする呼気が漏れ出す。

 絶句する残された四人の前でズルリと凶器は引き抜かれた。一片の慈悲も容赦もなかった。


「い、いやだ……父さん……父さん!」


 絶叫した青年はリーダーの男に横面を殴り飛ばされる。


「喚くんじゃねぇよ! おい、こいつらを縛り上げてその馬車に詰めろ。木も除けるんだ。いつも通り、できる限り痕跡は残すな」


 盗賊の三人が素早く行動を開始し、残りの三人は従わずにアルクゥや娘をチラチラと見ている。


「お前、何持ってやがる。見せろ」


 一人が無意識にポケットを触っていたアルクゥを見咎めた。

 そこには唯一の武器である短剣が入っている。しかし使い手はあまりに貧弱だ。早く見せるように急かされておずおずと取り出してしまった。


「なんだ? 骨董品か?」

「よこせ!」


 催促した盗賊とは別の男が、いかにも高価な装飾を見てアルクゥから短剣を奪い取った。


「っやめて、返して!」

「お前にはもう必要ねぇよ。飾られる側がこんなもん持ってたってしかたねぇだろう」


 ゲラゲラと下品に笑った盗賊は鞘を抜いて刃を撫でる。


「手紙も切れそうにねぇなあ」

「かっ返してください!」

「おおっと、返さねぇよ」

 止めなさいと制止する娘に構わず、盗賊が刃を掴んでからかうように振っている柄に飛びつく。


「おっ、がんばるじゃねぇか」


 余裕の表情に歯を食い縛り、渾身の力で引っ張った。

 するとズルリと短剣が戻ってくる。勢いで尻餅をついたアルクゥはやった、と顔を上げ――そして悲鳴を上げた。


「ひっ……!」

「指、指が! 俺の指が! あああああいてぇえええよおお!」


 盗賊の指が全て地面に転がっている。

 アルクゥは短剣に魔力を込めてしまったのだ。「殺せ」「やめろ」と騒ぎを聞きつけた盗賊たちの野太い声が交錯する。

 アルクゥは背後から短剣を奪われ、振り返る間もなく地面に転がされた。


「刃物を握ればそりゃそうなる。自業自得だ。全員縛り上げろと俺は言ったんだ。後続が追い付いたら引き上げるぞ」


 短剣の性質を知らないリーダーが場を収めなければアルクゥは殺されていたかもしれない。土を食んだ口が苦い。体の下に武器を抱き込んでジッと体を丸める。

 それから色々嫌な音がした。

 リーダーがケルピーに死体を食べさせる音、父を奪われた青年の慟哭、片手の指を失くした男が呻くアルクゥへの殺意。

 見たくないのに最後の一つは無視し難く、伏せていた視線をそっと動かす。血を失いすぎたのだろう。男は白い顔で今にも倒れそうな状態だ。


「ちくしょう、指が……ふ、ふざけんじゃねえぞ。てめぇは犯してから、一番最低な売春宿に売って……」


 全てを言い終える前に男は空を仰いだ。

 それまであった憎悪が消え、代わりに驚愕の表情が浮かんでいる。それが男の最期の顔だった。

 突風が吹き抜け、舞い上がる土埃に目を瞑る直前、アルクゥは男と交差する巨大な影を見た。後に残ったのは首無しの体は数秒立ち竦み、やがて噴き出す血の勢いに負けて崩れ落ちた。

 何が起こった。

 誰かが尋ねる。答えは上空から、空を裂く猛禽の声になって落ちてきた。


「魔物、魔獣だ! グリフォン!」


 我に返った盗賊の一人が空を指差した。巨大な影が血生臭い風を纏い滑空し、地面を抉って着地する。白い鷲の頭、黄色い嘴、赤茶けた大きな翼。獅子の身体はしなやかで鋼のような筋肉が隆起している。

 魔獣種の中で最も有名な魔物は、敵味方なく固まった一団を睥睨し、徐に腕を振るったように見えた。

 何をしたのかアルクゥが分かったときには、盗賊の一人が木に叩きつけられて絶命していた。速すぎる。


「逃げろ!」


 その叫び声で全員が一斉に身を翻した。

 アルクゥは目の前を走る盗賊のリーダーに続くようにして逃げ出す。茂みに隠れるつもりか、リーダーは緑深い林の中に疾走している。グリフォンは他の人間を狙ったようで背後で悲鳴が聞こえた。

 今の内に身を隠せば。

 そう思った瞬間、頭上からグリフォンが降ってきて眼前を走る盗賊のリーダーが潰された。

 喉を擦る悲鳴を飲み込み、踵を返す。

 グリフォンは一人も逃がす気がない。そう気付いたのは、生き残り全員が誘導されるように馬車の側に集まったときだった。

 我先にと走った足の速い盗賊たちは一人を残して全滅している。


「ケルピー、行け! 行くんだ! 足止めしろ!」


 盗賊が命じてもケルピーは身を伏せて動かない。

 グリフォンは次の獲物を値踏みするようにゆっくりと近付いてくる。逃げなければならない。だが初めに集団から外れた者が的にされる。

 アルクゥはにわかに背中を強く押された。

 一人孤立した場所で、呆然と蹲る。背後から「悪く思うなよ」と声がした。


「あんた……御者のくせに! 人でなし!」

「じゃあお前が代わってやれよ!」


 娘は返答に喘ぐうめきが聞こえたが、それ以降は沈黙した。


「いいか、そいつが食われたら一斉に走るんだ」


 そんな、と呟く。

 グリフォンは御者の狙い通りアルクゥを見ている。

 きっと一秒にも満たない。一刹那の時間でアルクゥの命は消える。

 グリフォンの白い羽毛は真っ赤に染まっている。薄茶色の斑紋が見て取れるほど距離は迫っていた。


「い、いやだ……嫌だ! 近寄らないで!」


 家に帰る。家族と一緒の穏やかな生活に戻る。贅沢な願いではないのに、なぜこんな目にあわなければならない。

 涙が溢れた。心の底から命が惜しいと思った。喉が熱くなる。吐き出す息が灼熱のようだ。

 額から伝った汗が目に沁みるようになった頃、アルクゥは異変に気付く。

 ――襲ってこない?

 グリフォンは嘴の隙間から甲高い鳴き声を発し、間合いを測るように左右にうろついている。緊張の只中で生唾を飲み込むと、思わず咳き込む。喉が渇く。空気が異様に渇いているせいだ。


(熱い……)


 大きく息を吸い込んだのに、少しも酸素を取り込めた気がしない。熱くて息が詰まる。

 とうとうグリフォンが一歩踏み込んできた。魔獣も息が荒くなっている。そこから血の臭気が香る。それほどに近いのだ。

 アルクゥの頭はますます熱くなり、脳裏に鮮烈なものが駆け巡り始める。


 神、精霊、龍、炎、青、赤、命――音や言葉、映像が駆け抜け、最後には愛しい母親の姿が現れる。

 柔らかな白い手がアルクゥに向かって差し出される。そこには小さな夜明けが封じられた炎が浮いていた。戸惑いながら受け取る。すると母は不意に龍に変じて遠く彼方へと飛び去っていった。


 アルクゥははっと我に返る。今の現象は夢か現か。その判断を下す間もなく、呼気の温度すら感じられる程に迫っていたグリフォンに、受け取った黎明を差し向けた。

 魔獣は炎に包まれる。

 転げ回り、火を消そうとするグリフォンの抵抗は無意味だ。火勢は衰えず、断末魔さえ飲み込んで天高く燃え上がる。

 ものの数秒で決着はついた。影絵のようになったグリフォンはそよぐ風に崩れ落ち、その絶命は疑いようもなかった。


「あ……」


 夢心地の余韻が消えた頃、後ろに細い声を聞いてアルクゥは振り返る。

 恐怖する者たちの目が並んでいる。


「あの……」

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! あたしは、止めろって言ったのに、コイツが!」

「お前だって見てただけだろうが! 俺はあの場で最善を選んだだけだ!」


 互いに互いを押し遣り、アルクゥに生贄を差し出して怒りを納めようと、娘と御者は言い争う。

 酷く空しくなった。一歩近付くと二人は硬直し、生き残りの盗賊は奇声を発して逃げていく。


「早く馬車を出してください。盗賊が仲間を引き連れて帰ってこないとも限りません。ケルピーに引かせれば速いのではありませんか?」


 転がっていた短剣を回収しながら言うと、御者は何回も頷いて馬車に走っていく。

 アルクゥは惨状を見回す。壮年の男と老婆の遺体は遠目にも見るに耐えない。乗せて行き弔うのは難しそうだった。

 青年は父親の服の切れ端を握って自失している。馬車の準備が整ったと御者が叫ぶと、ぐるりと首を巡らせてアルクゥを見た。


「何でだ」

「え?」


 聞き返すと、青年は怨嗟の叫びを上げた。


「何で、殺してくれなかったんだ! あんた魔術師だろ? 何でさっきのグリフォンみたいに最初から盗賊を殺さなかった! 何で弱い振りなんかしてたんだよぉ! もったいぶりやがって、お前のせいで、お前が動かなかったせいで!」


 体が冷えていく。


「わ、私は」

「おい、出るぞ!」


 御者の声でアルクゥは逃げるように荷台に乗った。その場に座り込んで動く様子を見せなかった青年を、娘が素早く降りて迎えに行く。そっと肩を支えながら荷台に乗せ、そのとき彼女の目がアルクゥを非難がましく見た。視線が合った瞬間恐怖の色に塗り替えられたが、彼女も青年と同じ感想をアルクゥに抱いているのだ。

 アルクゥは唇を強く噛む。まるで自分が悪人のようではないか。


 港への旅は、二人を欠いて再開される。


 馬車の空気は畏怖と恨みに満ちている。

 アルクゥは手の平に視線を落とし、ふと痛みを感じて裏返す。深い切り傷が手の甲にあった。

 死体になるよりはましだ。

 アルクゥは自嘲し、身震いをして頭を抱えた。私は一体何なんだろう、と。



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