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少女の独白

作者: 緑道木通

これは、弱虫で臆病者の少女が誰にも言えない悩みや思いを綴った独白である。



私は、世界一般に見ればとても幸福な人生を送っている。

五体満足で生活も何不自由なくやりたいことをやって過ごしている。


でも、人間という生き物は非常に欲深く、次第に今ある幸福に慣れ満足出来なくなり、更なる幸福に手を伸ばす。今のままでは居られなくなるのだ。


そして、私もそんな人間の内の一人だ。

ただ、私の求める幸福は物理的なものではなく精神的なものだ。これはある意味、今の便利で豊かな時代だからこそのものだと思う。



私には家族がいる。父と母と弟と私の四人家族だ。

ここだけ見るとただの一般的な家庭だが、私の家族は少しばかり特殊だ。

何故ならば、母は外国人だからだ。所謂、国際結婚である。

父と母の二人は結婚する際に親戚の人達から猛烈に反対されて大変だったそうだ。前例に無い国際結婚だ。大多数の人達が反対するのも当然だと私自身もそう思う。逆に、「好きにしなさい」とあっさり認めた祖父と祖母の意見に吃驚である。

まあ、何はともあれ私が存在していると言う事は、二人は無事に結婚したのだが、ここで少し娘の立場として気に入らない事がある。


私が産まれるちょっと前に、二人は離婚の相談をしていたのだ。かなり深刻なものだったと聞いている。

結局、その離婚は母が私を妊娠していると言う事が発覚し行動に移す事はなかったのだが、私の立場から見ればかなり複雑だ。自分はちゃんと望まれて産まれたのかが分からないからだ。ちなみに、この事を聞かされた時は小学生なかば辺りなのだが、私は未だに望まれて産まれたのかが分からないでいる。

二人は私の事をちゃんと愛してくれていたのだろうか、とふと頭に過る事が多々ある。弟には私が両親に愛されている様に見えるそうだが、私には弟の方が愛されていると感じる。直接両親に聞いた訳ではないのだが、私は自分の考えが正しいと思っている。


勿論、理由はある。

事情により、母と弟は一緒に住んではいないく、私と父との二人暮らしの様な状態になっていた。

母と弟はその事情により、海外の方で暮らしている。父は二人に頻繁に連絡をとっているそうだ。家族想いで非常に良いと思う。

でも、私はそんな父と共に住んでいるのに何ヶ月もお互いの顔を見る事も何年も口を聞かない事も当たり前の事となっている。

私は、自我に目覚め始めた時に、その状況は普通ではないという事に気が付いたのだ。

その事に気が付いた時は軽く落ち込んだだけだった。そう、軽くである。「何故」と疑問に思う事もなく、「悲しい」と泣く事もなかったのだ。まだ、幼かったのにだ。

当時はその事について何とも思わなかったが、私が今の私となって改めて考えると、その頃から私はちゃんと、変な言葉になるが、"家族が出来ていなかった"のだと思う。


私が過ごしてきた保育園から高校までの学生生活の間、その全てに必要だった学費などの費用は親戚の人が払ってくれていた。

幼かった私を両親の代わりに育ててくれたのも、その親戚の人だった。乳を飲ませてくれたのも、オムツを取り替えてくれたのもその人だ。

本当に頭が上がらなかった。

小さい頃は、その人を親の様に思っていた。両親からは貰えない、無償の愛情をくれる絶対的な味方だと思ったからだ。

でも、それは実在しないのだと気付いた。いや、本人から教えられたのだ。実際の所、「血が繋がっていなかったら殺したい程嫌い」だと言われた。これが冗談ならまだ良かったのだが、泣きながら静かに言われたのだ。それでも冗談だと思える程、私はポジティブな人間にはなれなかった。

言われた時には落ち込んだ。少なからず、信頼していたのだ。でもやっぱり、泣く事はなかった。


そんな事があって暫く経った時だった。今度は父から言われた。実の父からだ。「お前は、人としてどうかしている」と言われた。

勿論、それを言った理由を父は持っていた。でも、父は自分の意見だけを言って私に背を向けたのだ。まるで、私の全てが間違っていて、否定されている様に感じた。

当時、只々恐怖の象徴の様に感じていた父に私は何も言えないまま時がすぎた。

その言葉を言われた時に、私は父が完全に血の繋がりだけの他人なのだと自分の中で決まった。


それから直ぐに、母の住所が変わった事を知った。一緒には住んでいないが、今まで同じ住所であった母の住所が変わっていた。私は今、母の住所を知らない。連絡手段も持っていない。

親戚の人が言っていた。私は捨てられたのだと言っていた。

でもやっぱり、泣く事はなかった。悲しいと思う事もなかった。どちらをするも、思うも、とっくのとうに今更と言える位に母が居ないのが当たり前だと感じていたし、逆に、よく捨てられないものだと思っていた。

ただ、母は弟の方へと行ったのだろうか?と気になる所ではある。それに対して私は、弟の方へ言っていれば良いなと思う。弟はまだ身体も精神も幼いのだ。もう手遅れかもしれないが、私みたいに「人としてどうかしている」と言われるような人間にはなって欲しくないと思う。

これは心配というものなのだろうけど、純粋なものではない。何故ならば、例えば明日、弟と二度と会えない状態に成ろうとも、私は他人事の様に受け止められるからだ。これは嘘ではない。母と父の時と同じだ。


何が原因でこの様な状態になったのかは分からない。でも、きっと原因は沢山あって、私もその内の幾つかの原因となっているのだと思う。

でも、それに気づいた時にはもう遅く、修復出来ない位に溝が出来ていたのだ。言い訳にしかならないが、何より気づいた時の私は、あまりにも幼かったのだ。


そんな私には夢がある。今までの話を読んできたなら、直ぐにピンっと来るだろうが、普通に幸せな"家族をする"事だ。

だけど、私には幸せな家族の中に、今の家族を当てはめる事が出来ない。もう既に今の家族で"家族をする"事を諦めているのだ。

そんな私がこれから幸せな家族が出来るのか分からないが、一度でも、刹那な時間でも良いからしてみたいと思う。


以上、贅沢な悩みでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 贅沢な哲学ですね! なんか考えさせられました! それにしても文章テクニックが素晴らしいと思います。 テンポも悪くないですし、読みやすいです。 普通は『吃驚』なんて言葉は出てきませ…
2011/12/14 23:40 退会済み
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