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運命の人  作者: 櫻塚森
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女王陛下の勅命

家の事をぼんやりと考えていたディアナは自分にかけられた言葉にハッとした。

「もちろん、君以上にクレアの師となってくれる女性はいないだろう。」

家庭教師としてこの家で暮らせるということだった。

「君の部屋も用意してある。」

住み込みでとの注文だった。

その申し出はディアナにとても喜ぶべき事だった。

「あ、ありがとうございます。」

ディアナは彼の視線を戸惑いながら受け流していた。

「お兄様・・・。」

そんな彼に妹が声を掛けた。

「なんだい?」

「ディアナ先生は、私のお姉さまになるの?」

食事中だと言うのに、はしたなく噴出しそうになってしまった。

「なっ、」

ディアナが何かを言おうとするのを止める侯爵。

「誰がそんなことを?」

「ジェイキンスもイザークもそう言っていたわ。だってお兄さまは、私くらいの年の時から、未来のお嫁様を決めていて、それは女王陛下もお許しになっていたのでしょう?」

ディアナには何が何やら、貴族社会はよく分からないことだらけだった。


それは、有名な話。


王族とゆかりのあるシルヴァリー公爵家がヴァキンガム宮殿を訪れ、女王陛下の拝謁を賜った折、女王陛下は幼いライモンの聡明さに強く興味を抱いた。

「ライモン、将来は私のよき右腕となり働くか?」

幼いライモンを腕に抱いたまま尋ねた陛下にライモンは、幼いながら“仰せのままに”との返事をした。

「では、ライモン。お前にはよき妻を捜してやろう。」

女王陛下の申し出に幼いライモンは驚くばかりの返事をした。

「それには及びません。」

驚いたのはライモンの両親である公爵夫妻だった。

女王陛下の弟君であるシルヴァリー公爵は、人徳があり、商才に長けていたため、その代でかなりの財をなした。

女王陛下にも率直に意見を言える数少ない臣下でもある。

とは言え、自分の息子がこうもハッキリ陛下の申し出を断るとは思っていなかった。

「ほう、私の選んだものでは不満か?」

試すような視線で甥っ子を見る陛下に、ライモンは一切臆すことなく微笑んだ。

「いいえ、女王陛下。私には、すでに運命の月の女神がいるのです。その女神と添い遂げられなくてはきっと私は死んでしまうんです。」

5歳児の言葉である。

公爵夫妻は、ライモンの言葉に付け足した。

まだ夫人のお腹に彼が居る頃、1人の占い師が屋敷を訪ねてきた。

旅の途中で行き倒れたところを公爵家の小作人が世話をした。

占い師だとなのる老婆は、小作人の過去をズバリと言い当て、次に何をすれば主人の目に留まりもっと良い暮らしが出来るのかを助言した。

小作人は、占い師の言う通りの行動を起こし、シルヴァリー公爵はいたく彼を気に入った。

元々の頭の良さも買われ彼は厩舎の責任者まで成り上がった。

親しくなってくると気さくな公爵は未だに住まいを貸している占い師のことを聞きつけ、今度生まれてくる子供について聞いてみることにした。

その占い師は、生まれてくるのは男の子で、この国の発展には欠かせない存在になるであろうと告げた。

見るからに怪しい占い師ではあったが、嬉しいことを言ってくれたと公爵夫妻は喜んだが、占い師は付け足した。

「しかし、月の加護のある乙女を娶らねば、生まれ来る子も大英帝国も衰退の一途をたどるであろう。」

月の加護?いぶかしげる夫妻に占い師は翌日、忽然と姿を消したのである。

「その話を聞いた我が乳母が、幼い頃より、息子に言い聞かせていたようで・・・。」

女王陛下の実の弟である公爵閣下は苦笑するばかりだが、当の本人はいたって真面目だった。

「本当です、女王陛下。私はいずれ月の加護のある乙女を手に入れて、この国の発展に助力したいのです。ですから、陛下のお言葉には従えません。」

周囲は凍りついたが、女王陛下はそのライモンの言葉が大層気に入り、今後一切ライモンの相手には、誰も口出しをしてはいけないと命じたのだった。

万が一身分の低い者が相手であっても、後見人として自分がなるとまで言ってのけたのだった。


「ん~クレアはどう思う?」

優しい妹を見つめる瞳が綺麗だとディアナは思ったが、口を挟みたくても挟めない雰囲気だった。

「クレアは、お姉さまが欲しかったの。だから、嬉しい。」

可愛らしい花の蕾のような頬笑みにライモンは優しい笑顔を返した。

そして、余計な口を挟んではいけない、これは貴族の戯れなのだと、困惑しているディアナにも微笑んだ。

「どうする、ディアナ?クレアの言うように結婚しようか。」

「ええっ!」

今度は身体までもが硬直してしまった。

じっと自分を見つめる視線から眼を逸らせない。

(じょ、冗談だよね?悪ふざけ・・・。)

「手に入れた小鳥を手放すほど、私は甘くないよ・・・ディアナ。」

考えの中、彼が何を言ったのか彼女には届いていなかった。


つづく

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