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運命の人  作者: 櫻塚森
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ディアナ包囲網

「彼女を好きな理由か・・・。」

ふと記憶を辿る。

頭に浮かぶのはまだ幼い自分と彼女。

つい頬が緩んでしまうのを叱り、再び送られてきた招待状に目を通す。

自分にすら臆しているのに、公爵夫人などと言う人物のお茶会など彼女本来の聡明さや奥ゆかしさが隠れてしまう。

もう少し物怖じしないで出席できるお茶会はないかと送られてきた招待状を物色していたところに現れたのがイザークである。

「どうした?」

「ディアナさまのお父上と姉上さまが、お越しになりました。」

ライモンの手が止まる。

「そろそろ痺れを切らせたか。」

「そのようです。」

ゆっくりと大きな息を吐きながら立ち上がる。

「で、ディアナはどうしてる?」

「クレアさまが、お姉さまのドレスを選ぶのだと張り切っているのを必死で止めておられます。」

屋敷のムードメーカーであるクレアが彼女を迎えてからと言うもの実に明るく笑うようになった。

人見知りの激しいクレアは、今までの家庭教師をことごとく撃退していた。

彼女に気に入られたというだけで、ディアナは公爵家に相応しい女性だといえる。

初対面の時こそ公爵令嬢らしく猫を被っていた妹だが、ディアナを気に入った途端“お姉さま”と呼び始めた。

焦った彼女の表情が可愛くて、ライモンも妹を諌めなかったというか、もっと彼女に自分との仲を真剣に考えてくれと思っていた。

クレアは暫くして自分の仕事が忙しすぎてディアナをほったらかしにしていることについて苦情を申し立ててきた。

全く、可愛い妹だとライモンは思ったものである。


あの父親に感謝していることは、ディアナを連れてきてくれたことだけだった。

あの時の彼女がディアナであると知ったのは、半年位前のことだ。

ライモンは仕事終わりで寄った店で親友と話をしていた。

カーテンで仕切られた個室。

左右に人が居るのは分かっていたが皆気にせず酒を飲める席。

そのライモン達の席と隣にいたのがディアナの父親だった。

上流階級に入り込みたい彼は、このような貴族達の集まる夜のサロンに顔を出していた。

煩いのが隣に来たものだと感じたのは自分だけではなく、親友のジオンも感じていたことだった。

「うちの娘は、私に似ず美人でね、ぜひ良い縁があればと思っているのだよ。」

「そんなに美人なのかい?」

「ああ、頭も良いし・・・皆を虜にする力があるんだ。」

仕事先でやんややんやと自分の娘の自慢をしているディアナの父親の会話を聞いていた。

「自分で言うほど怪しいものはないよね。」

ぼそりと自分にしか聞こえない声でジオンが言う。

父親はわざとらしく娘自慢をし、その話を聞いて会いたいといってきた貴族を見つけたいのだ。

結局のところは娘すら道具としか考えていないんだなとライモンは苦笑した。

「ところで、あんたのところにももう1人娘がいるだろう?女男爵のところに養女に出した。」

もう1人の娘の自慢も始めるのかとため息を吐く。

静かに酒を飲みたかったのだが、と席を立つことも考えていた。

「ああ、アレは気味が悪い。その女男爵にそっくりな黒髪に金の目、顔を見るたびに小さい頃俺を叱り付ける女男爵を思い出して吐き気がするほどだ。」

黒髪に金の目。

それは、あの時に出会った少女と同じもの。

ライモンは立ち去ろうとしていた親友に別れを告げもう少しココで飲むことにした。

「女男爵って、お前さんのお袋さんだろ?」

「お袋なんて優しいものじゃない。何がいいんだか知らんが、兄弟の中であの女はワシにだけ厳しかった。兄貴達が戦争で亡くなった後でさえ、俺に家督を継がせようとしない。」

自分の母親に対する不満ばかりを述べる。

「月の女神の名前じゃないか。」

娘の名前がディアナであることが分かった。

「少しでも器量がよくなるようにつけたが、やはり、あの髪と目の色では不気味なだけだ。妙に勉強だけはできるのが祖母さんのお気に召したのも気に入らない。」

「おい、おい・・・娘だろう?」

「あんなのいらない。で、グロイスの旦那の嫁にしようとしたらこともあろうに家内まで止めやがった。」

グロイスは、好色で知られた資産家だ。

「そりゃ、奥さんの方が良識があるさ。あの男は少々変態だからな。」

娘の悪口を言い続ける男に対してライモンは、その娘があの子なのか確かめなければと思っていた。


暫くして彼女のことを調べ上げた。

調べるほどあの時の子だと思った。唯一の味方の祖母が亡くなり彼女が再び両親の元で暮していることを知った。

あの話では、よい生活をしていないだろうことは用意に想像できた。

彼女が家庭教師を始めたと言うことも分かったから餌を撒いた。

そして、彼女の父親はそれに上手く乗ってくれたのだった。




つづく

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