第9話 ローザの魔法
森の外
少し離れた広場に、
十字架の旗を掲げた聖騎士が4人。
そこへ森から
先ほど逃げ帰った3人が合流した。
「ご報告します!」
「魔女を見つけました!」
慌てたように捲し立てる。
もう1人は、
他の騎士を抱えながら言った。
「ま、魔物と共にいます!」
広場にいた騎士の中で、
壮麗な男が、
眉間に皺を寄せて怒る。
「魔物といるだと?!」
「あの女は必ず処刑しなければいけないのだ!」
森と反対の方向に目を向ける。
「それが、大教皇様のご意向である」
そう言うと、
隣にいた騎士に指示を出す。
「そこの奴にポーションを」
「準備を整えてすぐ向かうぞ」
────────
《主》
《人間の数が増えています》
フクが少し焦ったように言う。
「追撃部隊ですね」
アンが分析した。
「フク、 数は分かりますか?」
《見えた》
《数は7》
《さっきの3人もいる》
偵察のコタロウから
情報が共有される。
アンが顎に手を当てた。
「ふむ──
先程の3人が共に戻ってきたなら」
「相手は回復手段を持っている」
「可能性は高いわね」
ローザが被せるように言った。
「相手は聖騎士」
「教会の尖兵でお金はあるから」
「回復手段なんて幾らでもあるわ」
忌々しそうに歯ぎしりした。
《もう近くまで来てます》
コタロウも少し焦っている。
俺はハッキリとした声で
仲間たちを落ち着かせる。
「恐れる事は何もない」
「俺達は勝てる」
思ったより響いた声は
彼らにしっかり届いたらしい。
ハークが満面の笑みで聞いた。
「主!…殺していい?」
今までで1番、
いい笑顔かもしれないな。
「性懲りもなく戻ってきたんだ」
「死ぬ覚悟はできているだろう」
そう───
1度見逃した。
それなのに戻ってくるのは
殺されても文句はない…よな?
「アン、
最初に戦った3人への
最適な戦闘パターンを、
コタロウ、ゴエモン、ハークに指示しろ」
イグニスは冷静に言う。
半数はさっき戦ったから情報有利はこちらにある。
7人なら隊長格は必ずいるだろう。
兵法的には、相手の情報を引き出してからこちらが本気を出す方がいい。
今度はゴエモンに顔を向ける。
「ゴエモン──
お前は皆の盾になれ」
「お前は1歩も引くな」
その赤い瞳は──
ただ強く仲間を見つめている。
「なぜなら、引く必要はないからだ」
「全ての攻撃を、受け止めろ」
イグニスの言葉を聞いたゴエモンは──
嬉しそうに笑った。
それは、必ず成し遂げるという決意を表していた。
「俺は?俺は?主!!」
横からずずずいっとハークが割り込んでくる。
(忙しないやつだな)
イグニスは軽いため息をついて言った。
「ハーク、お前はまずアンの言うことを聞け」
「その後は、好きに暴れろ」
ハークの顔は一気にキラキラしてものすごく嬉しそうだ。
(まぁ、あとはアンに丸投げだ)
「聞こえてますよ、主」
アンから冷ややかな視線が飛んできた。
本当に──
頼れる奴らだよ。
「あたしの事忘れてない?」
今度はローザが不機嫌そうだ。
何かしたか?
「……そういえば、ローザは魔力切れしてなかったか?」
イグニスは思い出した。
ローザは追い詰められた時、
魔力を練ってはいたが魔法を発動してはいなかった。
「……!」
ローザは気まずそうに俯く。
「…確かに魔力は足りないわ」
「……っでも!他にもやれる事はっ!」
「俺が魔力を補充してやる」
「…え?」
少し焦った彼女だったが、
イグニスは意外な提案をした。
ローザが驚いてる隙に、
イグニスは彼女の手を取る。
咄嗟に手を引こうとするが、
暖かな感覚に止まる。
(な、なに…この感覚)
魔力が流れる感覚は、
とても暖かい──
そしてこの魔力は、
少し奇妙に感じる。
「……このくらいでいいか」
イグニスは手を離してアンの元へ向かう。
ローザは少し名残惜しく感じた。
そして、そんな考えを振り払うように、力強く言う。
「…しっかり見せてあげるわ」
「魔女の価値ってやつを」
イグニスは振り返って応えた。
「ああ── 君を信じてる」
二人の間に
風が吹き抜けた。
ローザは靡く赤の隙間から
彼を見据える。
───ふと、
空間が歪んで、イグニスの後ろに強大な影をみた。
1度目を擦って、再び彼を見た。
なにも変わらず、アンと話をしている。
(私はなにか──とんでもない場所に来てしまったのかも)
────────────
《主》
《来ました》
コタロウが報告してくる。
木々を抜けて現れたのは、
7人の白く輝く鎧と外套を身に着けた屈強な男達。
隊長格が居るからか、
さっきボコした奴らも騎士然としている。
今先頭に立っている歴戦の戦士を感じさせる男が隊長か。
(見た目だけなら、完全に正義の騎士はあっちだな)
「…我が名はガレンシア」
隊長ガレンシアは名乗りをあげた。
「主神、秩序と正義の神を信奉する」
「神聖秩序教会〈オルド・アンヘロ〉の聖騎士」
「お前達魔物と魔女を処刑する!」
そう言うと、控えていた部下達が前に出る。
(随分な事を言ってくれるな。
理由もなく殺されるなんてごめんだ。
悪いが、こっちがお前らを倒す!)
「そんな理不尽は到底受け入れられない!」
「受けて立つ!!」
イグニスも響く声で返す。
相手は少し動揺したが、ガレンシアが叱責した。
「みんな、戦闘態勢!」
イグニスの掛け声と共に、ゴエモンが前に出る。
その右後ろにハーク。
イグニスはアンとローザの前に立ち、彼女達を守る。
《みんな…ケガしないで!》
フクの切実な声が聞こえた。
《聞いたか──フクを心配させる訳にはいかないな!》
《まずは相手の出方を伺うです》
アンの指示の元、戦闘開始だ。
────
6人の騎士が、順に打ち込んでくる。
ゴエモンが全てを受け止め、弾き返したりいなす。
中には魔法剣を使う奴もいたが、
《絆──発動》
《聖魔王──発動》
《絆の効果により、仲間のスキル強化》
《聖魔王の効果により、仲間の魔力を補填》
イグニスのスキルによって、ゴエモンは倒れる事はなかった。
騎士が打ち込んだ隙を狙って、ハークがカウンターを入れていく。
それに続いて、ビーグルが体当たりをかましていく。
そしてコタロウが怯んだ騎士の脚の腱を切り付けて動きを制限していく。
「お前達!何をやっている!」
ガレンシアが焦ったように叫んだ。
《……今です!》
《騎士達を集めて下さい!》
アンが言う。
ゴエモンが正面──
コタロウは左──
ハークは右から──
騎士達を押し込んでひとつの塊にする。
「……灼熱の焔よ──我が敵を焼き尽くせ!」
《魔導演算──エラー!》
《魔力の演算失敗──威力制御失敗》
(…ええっ!?)
(…っ、なるがままよ!!)
「《ファイアー・ホール》!!」
ローザが極大の炎魔法を放つ。
「ちょっと、威力が出すぎるかもっ!」
ローザの言葉に、ハークが反応した。
「えっ!?ちょっ!!」
《今です!3人とも避けて!》
コタロウ、ゴエモン、ハークがすかさず後方へ飛ぶ。
次の瞬間──
騎士達を円形の焔が包み込んだ。
ドーム状となった魔法の中で、騎士達の断末魔が響く。
「……っぶね〜!!」
ハークが焦りつつ興奮気味に言った。
確かにギリギリだったのだ。
しかし──
これでローザの価値は証明された。
「…良くやった、ローザ」
振り返って見た彼女は、
微妙な顔をしながらイグニスを見つめていた。
「……あんた、何者なのよ」
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