第7話 魔女の少女
森の奥。
フクの耳がぴくりと動いた。
《主》
念話が届く。
《人間の気配》
《複数》
……やれやれ、
いったいなんの用があるのかな。
「総員、出動だ」
「招かれざる客は」
「丁重にお断りさせてもらわないとな」
――――
赤い髪の少女が走っていた。
枝が顔をかすめる。
息が苦しい。
それでも止まれない。
止まれば——
捕まる。
捕まれば処刑。
母もそうだった。
燃える炎の中で──
「はぁ……はぁ……」
背後から声が響く。
「いたぞ」
白い鎧。
十字の紋章。
聖騎士。
三人。
「魔女の娘」
「逃げ場はない」
少女は歯を食いしばる。
炎の魔力が揺らめく。
だが弱い。
疲れ切っている。
魔力に集中しすぎて、
足がもつれた。
勢いそのまま、
地面に叩き付けられる。
「……くっ」
一人の聖騎士が剣を抜いた。
「終わりだ」
(…こんなところでっ、)
(終われない!)
その瞬間。
森の木の上から声。
「おい」
聖騎士たちが振り向く。
そこにいたのは——
ゴブリン。
イグニスだった。
聖騎士が笑う。
「魔物か」
「ちょうどいい」
「ついでに始末する」
刹那――
影が動いた。
コタロウ。
聖騎士の背後へ。
ハークが突っ込む。
「オラァ!」
ゴエモンが盾になる。
「硬化」
剣が弾かれた。
ビーグルが足に噛みつく。
聖騎士は驚いた。
「ゴブリンが連携だと!?」
短い戦闘だった。
だが——
ゴブリンたちは強かった。
聖騎士の一人が吹き飛ぶ。
「…っば、バカな!」
それを見て、
残りの騎士があとずさる。
吹き飛ばされた騎士を抱え、
来た道を引き返して言った。
「覚えておけ魔物!」
「教会を敵に回したぞ!」
捨て台詞を残して。
森は静かになった。
少女は呆然としていた。
あっという間に
状況が変わった。
ゴブリンを見る。
普通なら
恐怖。
ビーグルが近づく。
「ワン」
尻尾をぶんぶん振っている。
赤い髪の少女は一瞬固まる。
「……犬?」
ビーグルはローザの手をぺろっと舐めた。
少女が思わず笑う。
「なにこれ」
「かわいい」
張り詰めていた空気が、
少し和らいだ。
イグニスが言った。
「大丈夫か?」
少女は目を見開く。
魔物が
人間の言葉を話した。
少女は小さく笑う。
「……変なの」
そう。
変だ。
でも――
悪くない。
そして言う。
「ゴブリンに助けられるなんて」
「初めてよ」
イグニスは肩をすくめた。
「俺もだ」
少女は少し考えた。
そして言った。
「ねえ」
「あなた」
「魔王になる気ある?」
イグニスは答える。
「ある」
迷いはない。
少女は笑った。
静かにゆっくり立ち上がる。
「なら」
「私を雇いなさい」
赤い髪が揺れる。
「魔女は役に立つわよ」
その煌めく翠の瞳には、
強い焔が
揺らめいていた。
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