第4話 水源の気配
洞窟の奥から、水の音が聞こえていた。
ぽたり、ぽたり。
静かな地下の空間に、一定のリズムで響いている。
イグニスは耳を澄ませた。
「この奥だな」
アンが頷く。
「地下水路の可能性が高いです」
「水源があるなら拠点として安定します」
イグニスは振り返った。
「よし」
「様子を見に行こう」
洞窟の奥へ進む。
少し歩くと通路が二つに分かれていた。
その時だった。
ビーグルの耳がピンと立つ。
「……ワウ?…ガルルルッ」
小さく唸る。
そして奥を見つめた。
ハークが首を傾げる。
「どうした?」
ビーグルは唸ったまま、前を見ている。
その時だった。
《主》
念話が響く。
コタロウだ。
《奥に……何かいる》
イグニスの表情が変わる。
(敵か?)
《分からない》
《小さい》
イグニスは頷く。
「慎重に行く」
全員が静かに進む。
そして通路の先。
地下水路が見えた。
細い川が流れている。
透明な水。
だが、その岸に——
小さな影。
リザードマンの幼体だった。
まだ子供だ。
しかし三体の魔物に囲まれている。
……またか。
これからもこういう事はよくありそうだ…。
洞窟ゴブリンか。
棍棒を振り上げている。
「ギャギャ!」
幼体が震えている。
「キュゥ……」
ハークが呟く。
「どうする?」
イグニスは一瞬だけ考えた。
そして言う。
「助ける」
ハークが笑う。
「やっぱりな!」
その瞬間。
ビーグルが飛び出した。
「ワンッ!」
洞窟ゴブリンの一体に体当たり。
「ギャッ!?」
ゴブリンが倒れる。
ハークが突っ込む。
「オラァ!」
拳がゴブリンを吹き飛ばす。
残り二体。
ゴエモンが前に出る。
棍棒を受け止める。
「硬化」
腕が岩のように固くなる。
棍棒が弾かれた。
その隙に——
コタロウが背後へ。
「……遅い」
短剣がゴブリンの足を払う。
最後の一体が逃げようとする。
アンが呟いた。
「主」
「止めますか?」
だがその前に。
ハークの拳が落ちた。
イグニスは肩をすくめる。
「いや」
「もう終わりだ」
ゴブリンは地面に倒れた。
静寂。
ビーグルが振り返る。
「ワン!」
イグニスは笑う。
「ナイスだ」
ビーグルの尻尾が激しくゆれる。
そして。
イグニスは、震えているリザードマン幼体を見る。
小さなリザードマンが、怯えている。
目がクリクリしていてかわいらしい。
助けられてよかった。
「大丈夫か?」
もちろん通じない。
だが幼体は怯えながらも
イグニスを見ている。
アンが言う。
「敵対意思はありません」
「ただの子供でしょう」
イグニスは水路を見る。
地下水。
洞窟。
そしてリザードマン。
「……なるほど」
「この水路、あいつらの縄張りか」
アンが頷く。
こころなしか口角があがって、
悪い笑みを浮かべている。
「その可能性は高いです」
イグニスは少し考えた。
そして言う。
「なら」
「喧嘩はしたくないな」
ハークが笑う。
「外交か?」
イグニスも笑った。
「国作るなら必要だろ」
ビーグルがリザードマンの幼体に近づく。
「ワン」
幼体は少し驚いたが
逃げなかった。
イグニスは水路を見つめた。
この小さな洞窟。
小さな群れ。
だが——
ここから何かが始まる。
「よし」
イグニスは言った。
「この水路、借りるぞ」
そして小さく笑う。
「隣人としてな」
地下水路の音が、静かに響いていた。
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