第3話 最初の巣
森の空気が、少し冷えてきた。
木々の隙間から見える空も、わずかに赤い。
日が落ち始めている。
つまり——
夜が来る。
この森で夜を迎えるのは危険だ。
イグニスは周囲を見回した。
まだ小さな群れ。
ゴブリン五体とコボルト幼体。
だが今は、こいつらが仲間だ。
「アン」
「あとどれくらいで日が暮れる?」
アンは少し目を閉じ、森の様子を観察する。
そして静かに答えた。
「はい、主」
「およそ四時間後かと」
四時間。
長くはない。
「よし」
イグニスはすぐに指示を出した。
「コタロウ」
小柄なゴブリンが顔を上げる。
「洞窟を探してくれ」
「フクはサポートだ」
フクが耳をピクリと動かす。
「千里耳で周囲を探ります」
コタロウは短く頷いた。
「任せろ」
次の瞬間、森の中へ消える。
ほとんど音がしない。
忍足。
あれは便利だ。
「すごいな」
イグニスが呟くと、アンが答える。
「彼は斥候向きです」
「今後の軍でも役立つでしょう」
「軍か」
イグニスは肩をすくめる。
「まだ六人の群れだぞ」
するとハークが笑った。
「でも主、国作るんだろ?」
「だったら軍もいるだろ!」
「……確かに」
その時だった。
頭の奥に、声が響いた。
《主》
イグニスは思わず目を瞬く。
(コタロウ?)
《洞窟、発見》
短い言葉。
だが確かに聞こえた。
イグニスは少し笑う。
(便利だな、これ)
アンが頷いた。
「絆スキルの影響でしょう」
「念話が可能なようです」
ハークが驚く。
「頭の中で喋ってる!?」
ビーグルが尻尾を振る。
「ワン!」
イグニスは立ち上がった。
「行くぞ」
「案内してもらおう」
⸻
森を少し進むと、岩壁が見えてきた。
その下に、小さな穴。
ゴブリンがかがめば入れる程度の洞窟。
「狭いな」
ハークが言う。
だがコタロウが首を振った。
「奥がある」
イグニスは中へ入る。
暗い。
だが少し進むと、通路が広がった。
さらに奥へ。
すると——
水の音。
「……水?」
地下から流れる水。
アンが静かに言う。
「地下水路です」
「拠点として理想的かと」
イグニスは周囲を見回した。
広い空間。
分岐する通路。
そして水源。
「……悪くない」
ゴエモンが頷く。
「守りやすい」
フクは耳を澄ませている。
「周囲に大きな魔物はいません」
コタロウは入口を見張る。
ハークは興奮している。
「ここ、秘密基地みたいだな!」
ビーグルが嬉しそうに吠えた。
「ワン!」
イグニスは仲間を見回す。
まだ小さな群れ。
弱い。
だが——
ここにいる。
「よし」
イグニスは言った。
「ここを拠点にする」
「俺たちの最初の巣だ」
ビーグルが吠える。
「ワン!」
ハークが拳を上げる。
ゴエモンは静かに頷く。
フクは周囲を警戒する。
コタロウは入口を守る。
アンは地形を観察している。
イグニスは小さく笑った。
「……いいじゃないか」
最弱ゴブリンの小さな群れ。
だがこの洞窟は、やがて——
魔王軍の最初の城になる。
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