第13話 森の理
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早朝。
森の中は、相変わらず静かだ。
いや──
静かすぎた。
そんな中、コタロウとフク。
二人は、
拠点の入口付近にある切株に座っていた。
コタロウがフクの手を取る。
「……冷たいな」
「……っ、 え…」
《……フク、 気配は幾つだ?》
《……っじ、10…だよっ!》
コタロウは至って冷静だが、
フクは少し動揺している。
先程、
フクは拠点の前に多数の気配を感じた。
“見られている” ──
心配になってコタロウに念話で伝えた所、
今のこの状態が出来上がった。
フクも、
この一連の流れが、
謎の気配を油断させる為のもの──
とは理解している。
しかし、
普段のコタロウからは想像出来ない。
優しい声。自分の手を握る一回り大きい手。
胸を高鳴らせてしまうのは、
致し方ない事だ。
《……フク、俺が手を離したら──》
「……ふわぁあああ〜あ」
「…あれ? 二人ともこんなとこでなに──」
その時、
拠点から寝起きのハークが出てきた。
雰囲気がぶち壊しである。
しかし、
コタロウはこのタイミングを逃さなかった。
一瞬でハークに回し蹴りを加え、
木の枝の気配に当てた。
あまりの速さに、
フクは声も発せず口をあんぐり開けるだけ。
「……ぐえっ!!」
「……っぐほっっ!?」
ハークと何者かの呻き声が重なった。
その瞬間──
ハークも状況を把握する。
すかさず当たった何かを下敷きに着地を決める。
そのまま羽交い締めにした。
《……主! みんな!!》
ハークはイグニス達を呼ぶ。
そこへ──
「そこまでだ」
声が降ってきた。
次の瞬間、
木々の上から影が降りる。
音もなく。
長い耳。
細身の体。
淡く光る瞳。
森エルフ。
気付けば、周囲にも数体。
完全に囲まれている。
いつの間にか、
フクはその内の一人に捕まっていた。
「……動くな。」
「…こいつがどうなっても良いのか?」
そのエルフは冷たく言い放つ。
だがコタロウはニヤリ──
と、笑った。
と思うと姿を消し、
フクを拘束している者に飛び掛る。
「……っな! 貴様っ、仲間を…」
エルフが咄嗟にフクの喉を一閃。
しかし、感触がない。
フクだったモノは、すっと消えた。
コタロウはハークに仕掛けたよりも速く、
勢いを付けてそのエルフに蹴りを食らわせた。
ゴッッ!! ドガッッ!! ドオオォォン!!
最後は大木に当たり、
木は土煙を立てながら後方に倒れていった。
「……ほう?」
中央に立つエルフが感心する。
ハークが笑う。
「……コタロウ! やるなぁ、 お前っ!!」
「やめなさい」
アンが制する。
「……コタロウまで」
「……先に手を出してはダメじゃないですか」
昨日手に入れた、
ひび割れたメガネをくいっと上げる。
中央のエルフに対して問いかける。
「……それで、どんなご要件でしょうか?」
エルフの一人が前に出た。
書簡を取り出し、読み上げる。
それはまるで──
裁判のようだった。
(……不愉快だな)
アンの後ろに立つイグニスは、
不快感を露わにする。
空気が一段、重くなる。
エルフは一瞬萎縮するが、
矜恃の為か踏み止まる。
「…おっ、お前達は」
「…このもっ、森に人間を連れて来た」
「……そっ、そして無作為に」
「…魔物の群れを形成した」
イグニスは一歩前に出る。
「……つまり、なんだ?」
その威嚇は──
ただのゴブリンとは到底思えなかった。
周囲のエルフもたじろぐ中。
中央のエルフ──
恐らく指揮官である。
彼女は冷たく言い放った。
「 お前達は排除対象だ」
空気が張り詰める。
一瞬。
コタロウが消えた。
次の瞬間、
エルフの背後に立っている。
「……遅い」
首筋に刃。
だが──
「浅い」
いつの間にか、
別のエルフがコタロウの背後にいた。
止まる。
互いに一歩も動かない。
「……ふむ」
エルフの指揮官が目を細める。
「ただのゴブリンにしては」
「……高い統率力だ」
コタロウが掻き消え、イグニスの元へ戻る。
イグニスは動かない。
「話をする気はあるか?」
アンが前に出た。
「誤解があります」
エルフの視線が集まる。
大袈裟に肩をすくませる。
「私達は森を荒らしていません」
「むしろ──」
一瞬、間を置く。
「制御しています」
「……制御だと?」
嘲るような声。
アンは動じない。
「南から魔物が流入しています」
「暴走個体も確認済み」
「それを放置すれば」
「森は崩壊します」
最後は嘲った態度のエルフを睨みつけた。
それはまるで──
蛇。
訪れる静寂。
エルフ達の空気が変わる。
指揮官が口を開く。
「……証明はあるか?」
フクが小さく言う。
いつの間にか、
イグニスの後ろでローザと腕を組んでいた。
「……空が燃えた」
「魔物が……怖がって逃げてる」
苦しそうに言う。
その言葉に、
エルフの一人が反応した。
「……我々も確認している」
完全に敵ではなくなった。
ローザが口を開く。
「……私は人間だけど魔女よ」
「…森とは共に生きる存在」
その瞳は力強く揺らめく。
「それにこの子達、ただの魔物じゃないわよ」
「少なくとも──」
「そこらの人間よりまともね」
最後は挑発する様にニヤリと笑った。
エルフが眉をひそめる。
互いに目配せ合う。
イグニスが言う。
「森を守る気があるなら──」
さらに一歩踏み出す。
「手を組め」
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
エルフの指揮官が息を吐いた。
「……条件付きだ」
「森を乱せば排除する」
「我々は常に監視する」
イグニスは頷いた。
「構わない」
「むしろ──見ていろ」
「俺達が何をするか」
一瞬。
エルフが、わずかに笑った。
「……面白い魔物だ」
風が吹く。
次の瞬間、
エルフ達の姿は消えていた。
静寂が戻る。
ハークが言う。
「……で、味方?」
アンが答える。
「半分です」
イグニスは空を見上げる。
「それで十分だ」
森は、まだ静かだった。
だが──
何かが、
確実に動き始めている。
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このやり取りに──
コボルトの一人が心を乱す。
(……排除…?)
ドクン…。
(……俺達は……故郷から追われたのに……)
ドクン…。 ドクン…。
(──なんで)
ドクン…。 ドクン…。 ドクン…。
(…たしかに俺はっ、 守れなかった)
ドクン…。 ドクン…。 ドクン…。 ドクン…。
(……おれは── 逃げた……!!)
ドクンッ──
「……壊して……やる……」
──どこかで聞いた声が、重なった。
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体調不良の為、投稿が遅れて申し訳ありません。
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