第10話 ガレンシアと聖なる魔王
──
ローザの魔法は凄まじく、
解除されるのに五分はかかった。
ハークは目をキラキラさせて、
近づいたり離れたりを繰り返している。
「…ハーク、 危ない」
さすがのゴエモンも見かねて注意した。
「なによそれ」
「気が抜けるわね、貴方達」
ローザが呆れている。
どうやらこの短時間で少し馴染んできたようだ。
そうこうしていると──
魔法が解除され、
円形の焼け跡と騎士達の武具だけが残されていた。
「…ローザの魔法、こえ〜〜」
ハークが思わず言った。
(確かに敵には回したくないな)
イグニスは心の中でハークに同意する。
「それを言うなら」
「あの威力で溶けない武具も変です」
アンは険しい顔をしながら言う。
彼女はいつでも冷静だ。
「…あとで分析しないと」
イグニスは思わずアンを二度見した。
アンの新しい一面が垣間見えた瞬間だった。
「……お前達、ふざけるなよ!」
「よくも私の部下を!!」
煙の中からガレンシアが出てきた。
その形相は鬼のようだ。
そう───
まだ戦闘は終わっていない。
ガレンシアの身体から、
聖力が溢れ出す。
「…身体が、ギシギシする」
ハークが嫌そうに呟いた。
覇気のようなものを飛ばしているのかもしれない。
だとしたら、ガレンシアは危険だ。
さっきの戦法じゃ通らないか。
イグニスは背を向けたままアンに言った。
「…アン、時間を稼ぐ」
アンは直ぐに了承し、強く言った。
「はい、主」
「必ず奴の隙をついてみせます」
ローザはアンの隣に並び──
「私は貴女の指示に従うわ、アン」
「…ふふ、 責任重大ですね」
二人で不敵な笑みを浮かべた。
《…よし、コタロウ、ゴエモン、ハーク》
相手は強敵。
イグニスは静かに仲間に伝える。
《は!主》
《……主》
《おう!主!》
三人はすぐに返事する。
(本当に個性者ぞろいだな。
頼もしい。)
イグニスは内心ニヤケながら言う。
《俺達はあの男に攻撃をしかけ、奴の戦法を暴くのが役目だ》
《何としても耐えろ》
《死なないようにな》
《御意!》
《…うん!》
《おうよ!》
それぞれ覚悟を持って応える。
(まぁ、絶対に死なせはしないがな)
《絆──個の信頼レベル検出》
《個体に応じ、最適補助展開》
《聖魔王──個の最大魔力の供給開始》
《絆の特殊効果により、一時的にスキルを強化》
なにやらスキルが騒がしい。
────
ステータス
個体名: コタロウ
固有スキル: 忍足
↓
絆の補助効果発動
忍足+影移動の合成
↓
成功: 固有スキル 忍術に進化
個体名: ゴエモン
固有スキル: 硬化
↓
絆の補助効果発動
硬化+剛心の合成
↓
成功: 固有スキル 剛力の者に進化
個体名: ハーク
固有スキル: 腕力強化
↓
絆の補助効果発動
腕力強化+奮闘の合成
↓
成功: 固有スキル 戦闘狂に進化
────
イグニスのスキルが、
彼らの信頼関係に呼応して発動した。
三人もそれぞれ、
自身が突然急激に強化されたことを感じていた。
(……これなら、いける!)
「……はぁっ!!」
ガレンシアが集中する。
すると、彼の纏う聖力が大きくなる。
その瞬間──
勢い良くコタロウに斬りかかった。
すかさずゴエモンが間に割って入った。
ただ一歩踏み込み、
腕でそのまま剣を受け止めた。
硬化スキルは発動している。
だが――
それ以上に、
彼の肉体そのものが壁だった。
(……むっ)
ゴエモンは気合いでガレンシアを押し返した。
「……馬鹿力め!」
さすがのガレンシアも、
押し返されるとは思っていなかったようだ。
しかし、ゴエモンの腕に刃が食い込んだ。
血が──ぽたりと、落ちる。
ゴエモンの足が
さらに地面へ沈んだ。
土が弾ける。
それでも
盾は下がらない。
「……ゴエモンっ!」
コタロウが叫ぶ。
《……大丈夫》
念話から聞こえるゴエモンの声は、
とても落ち着いていた。
コタロウもその声に冷静さを取り戻す。
「うおりゃぁあああ!!!」
そこへハークが、
強化されたスキルで渾身の振り下ろしを狙う。
しかし、
ガレンシアの方が上手だった。
ハークに気付くと軽やかに後ろへ飛んで避ける。
ハークの拳は空を切るに留めた。
「……なっ?! くそぅ!!」
ハークが悔しそうに唸る。
そこへ──
すぐにガレンシアの突きが繰り出される。
コタロウは咄嗟にハークを蹴り飛ばし、
突きを回避させた。
「…っ! 油断するなハーク!!」
コタロウを援護する様に、
今度はゴエモンが左手を前方に大きく振る。
ガレンシアは、
今度こそ大きく後方に飛んで間合いをとった。
経験の差が、大きな壁となって立ち塞がる。
《お前達、一度落ち着くんだ》
冷静なイグニスの声が響く。
三人は乱れた息を整えようとする。
そのとき──
《……みんな、しっかりして!》
この場に居ないフクの声が聞こえた。
《…私には、皆の姿が見えない》
《でもっきっと、人間なんてパッと倒して》
《笑いながら帰ってくるって!!》
《…っ、分かってるから…》
力強い言葉を送ったかと思えば──
鼻をすする音が聞こえてきそうにか細い声に変わる。
(フクに心配させてしまった)
コタロウはぎゅっと拳を握りしめた。
──影が揺れる。
次の瞬間。
コタロウの姿は、
ガレンシアの背後にあった。
ただ一点──
ガレンシアの首を狙う。
「……っぐ、ぉおおおお!!」
ガレンシアは咄嗟に左後方に倒れ込む。
コタロウの短剣は、
ガレンシアの右肩を切り裂いた。
《……くっ、浅かった》
その瞬間──
「うぉるりゃぁあああっ!!」
ハークが弾丸の様に現れ、
その勢いのまま
ガレンシアの左腕を殴りつけた。
ゴキュッ!
骨の折れる音が大袈裟な程に響く。
「……っっ! うぅ、ぐぅぁあああっ!!」
ガレンシアの悲痛の叫びが木霊する。
《……! ゴエモン!》
《今ですよっ!!》
アンが叫ぶ。
ゴエモンは、
ガレンシアの足を掴み勢いよく振りかぶった。
ガレンシアは近くの大木に叩きつけられる。
「……ぐはっ!!」
──一瞬の静寂。
「……や、やった……のか?」
ハークが力なく呟いた。
コタロウもゴエモンも、
流石に疲労の色が滲む。
「……っぐ、調子に乗るなよ!」
ガレンシアがフラつきながらも立ち上がる。
その表情は、驚愕と怒りに歪んでいた。
「たかがゴブリンごときに──」
「聖騎士である俺が!」
「聖剣使いである俺がっ!」
「……負けるはずが! ない!」
そう言うや否や、
ガレンシアは聖なる光に輝く剣を大きく振った。
聖力を宿した大きな波動刃が、
三人を目掛けて飛んでくる。
光の刃が当たる瞬間──
イグニスが立ちはだかり、すっと右手を翳した。
その掌から放たれたのは──
聖なる光。
だがそれは、
ガレンシアの放つ聖力とは
まるで質が違った。
静かで。
圧倒的で。
そして──
神聖だった。
その光は、
ガレンシアの放った
聖なる刃すら──
まるで存在しなかったかのように
呑み込んだ。
「……バッ、バカなっ!!」
ガレンシアの顔が恐怖で歪む。
「あ、ありえないっ!なぜ…!」
「…魔物であるお前が──っ!!」
その瞳は、絶望に染まる──
「……還れ」
イグニスの言葉と共に、
その指先から放たれた一筋の閃光が──
ガレンシアを貫く。
「嫌だ!!…やめっ──」
身体が光の粒となって弾ける。
その光は、やがて空へと消えていった。
後に残るのは、光を失った剣と鎧のみ──
────────
「……お、終わっ──」
「……っとに、なんなのよあなた!!!」
ハークの声に被せて、ローザの怒声が森に響いた。
イグニスは、
少し困った様に肩をすくめる。
その後ろでは、
コタロウとゴエモンが、聖騎士達の装備を拾い集めている。
「……あとで説明す──」
その時。
ゴォォォォォォ…
空気が震える。
低く重い振動が響いた。
まるで空が──
唸っているような。
ハークが空を見上げる。
「……なんだ?」
「……クゥゥゥン…」
ビーグルは、
不安そうにハークの足に頭を擦り寄せた。
コタロウが森の奥を見つめて言う。
「……風じゃ…ない」
アンが冷静に呟いた。
「……これは── 空です」
一斉に空を見上げる。
だが──
森の枝葉に遮られ
何も見えない。
ただ一瞬。
遥かな上空を
**巨大な影が横切った。**
その影はあまりにも大きく、
一瞬だけ──
森から光が消えた。
ゴエモンが呟いた。
「……嫌な感じ」
ローザが眉をひそめる。
「……今のは、なに?」
イグニスは空を見据える。
そして静かに呟いた。
「……来たんだ」
遥か上空に。
雲より高みに。
巨大な翼が空を裂いていた。
──その名を
** アグニード。 **
読んでいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら
ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします!




