表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イミテーション・レイン  作者: 彼方夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

邪まな感情。


 ホテルで身分証明書を出すと、受付のおばさんから怪訝な顔をされたが、なんとかカギを渡してもらえた。

 俺はポケットに一度カギを直すと、ぐしゃりと変な音がした。中身を取り出すとコンドームが入っていた。

 ただ雨宿りをするだけだ。それだけ。

 しかし、彼女に対して邪な気持ちが無いかと考えればそうでもない。このまま流れで情事を行えればどれだけ幸せだろう、とも思う。

 けれども、その反面こんな状況で彼女と初夜を迎えることは、もったいない気もする。男子高生というのは、エモーショナルな恋愛に憧れを抱くものだ。

 母親の隣で観た月9ドラマのような、感涙的な恋愛を。……それは少し違うか。

 部屋に入ると不思議な甘い匂いがした。

「先に風呂に入ってくるから」

「分かった」

「覗いてもいいけど。がっかりするよ」

「貧乳なのか?」

「……失礼。下品。そして変態」

 ――バタン、と扉を大きな音を立てて閉めた河合。

「変態は名誉ある男爵のことだと思うけどな」

 俺にはその名誉? をぶら下げられるほど格式高くは無いが。

 ってか、なにを考えているのだろうか。

 椅子に座って自宅に連絡を掛ける。三歳の妹は当然連絡には出られない。なので、留守電にメッセージを残す。

「ごめん。兄ちゃん、遅くなる。戸棚にあるお菓子食べておいて。帰ったらちゃんとした飯、作るから。本当にごめん」

 電話を切る。

 こういうことをしている度に、母親としての責任を果たしていない“あいつ”のことを酷く恨めしく思う。俺はもういい。でも、歩美だけは……歩美だけは幸せな人生を送ってほしい。子供時代はその俗世的な「幸福な人生」とやらの基礎を作り上げる大事な期間だと、俺は思うからだ。

 だから……

「風呂上がったよ」

 バスローブに身を包み、のぼせた顔をしている河合。どこかエロティックで、しかし彼女の性格さ故なのか、誠実さも雰囲気としてあった。それが俺の男としての性を刺激させて仕方がない。俺はそんな気分からも目を逸らすように立ち上がり、風呂場へと向かった。

 シャワーを浴びて、数十分。浴室から出る。彼女は椅子に座り、缶に口を付けていた。ジュースでも飲んでいるのだろうか。

「なに飲んでいるんだ?」

「缶チューハイ」

「はぁ⁉」

「そんなに叫ばなくても。こういう場所でしか飲めないじゃない。ほら、雷太も記念に」

「う、うん」

 俺も缶チューハイを一口含んだ。感覚的にはあっけなかった、と言えばいいか。酒と言えば大人たちが「美味い」と口をそろえて言い、悪口を肴に傾ける、現代の風刺の象徴だと思っていた。これを飲めば全てから一瞬の間、解放されるのだと期待していたのだが、すぐにもそれは幻想であったと確定された。下手なファンタジー小説の読後感のような、そういう気分だ。つまりは、ほとんど味のしないガムを噛んでいる、くだらないもの。

「あれ、あんまり口に合わなかった?」

「うん。俺には酒は向いてないようだ」

 彼女は手中で缶を左右に傾けながら、

「確かに、サイダーでは泡沫と強炭酸によってひと時の非日常感が味わえる。でも、酒はそういうわけでもない。場合によっては二日酔いもするし。でも、それが大人なのかもね」

「……」

「私が、一度も味わえないもの……」

「もう一本頂くよ」

 俺は、今度はビールに挑戦した。

 苦すぎて飲めたものではなかったが、それでも飲み続けた。

 人生の延長線。大人としての道をこれから歩むことになる。そのときに、彼女と一緒に酒を汲み交わした思い出を抱けるように。

 酩酊状態の中、俺はベッドに寝転がった。彼女も酔っていた。

 視界が狭まった状態で、彼女のことを見た。

 性欲が高まった瞬間、ある物を見て、すぅっとそれが冷めた。

 彼女のはだけたローブ。背中に鞭打ちの痕跡があったのだ。

「それ……」

 俺は追及をしようとした。だがそれを阻止したのは、彼女の唇だった。

「おやすみ」

 それは彼女の作為的な口付けだったのか。はたまた酔いつぶれた彼女の、遊び半分の接吻だったのか。

 理由が分別しないなか、瞼が重くなった――



 音がした。小雨だ。窓の外で小雨が鳴いている。

「おはよう」

 彼女は少し顔の血色が悪かった。きっと二日酔いだろう。もちろん、俺も気分がすこぶる悪い。

 だからこそ、早急的に解決しないといけない問題があった。

「さいしょはグー、じゃんけんポン」

「やったー、勝った。う、うう」

 じゃんけんで負けた俺は嘔気との戦いが始まった。

「は、早くしてくれよ」

 彼女のために、トイレで何をしているかの詳細は語らない。

 順番が来て、処理をして、入れ替わりをしての繰り返し。

 これが三十分間続いた。ひどい初デートの一日だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ