雨乞い
帰宅すると真っ先に傘を折りたたみ、それからブレザーを脱ぐ。そして洗面台で手を洗った。
冷蔵庫の中から夕食の具材を取り出す。
「お兄ちゃん。今日の晩ごはんはなに?」
三才の、くまのプーさんのフードを被っている妹。名前は歩美。右手にはかじったクッキーが握られている。
「今日の晩ごはんはカレーな」
「やったー!」
妹が変な踊りをする。
「歩美。将来はアイドルになれるかもな」
おっと、これではシスコンだ。
切り分けた具材をコトコト煮詰めて数時間。次にカレールーのたねを鍋に投入しまた一時間。
それから出来上がったカレー。歩美にはミッフィーの食器にやわらかめに炊いたご飯と甘口カレーをよそう。
そうしたあと、コップにコトコトと梅サイダーを注ぐ。
「お兄ちゃん、今日も雨だね」
「うん……」
窓の外を見ると雷雨が響いていた。
□■□
深夜一時。俺は静かに食器の後片付けを行っていると、玄関の扉の開く音がした。
「ただいまぁ」
ホスト帰りの毒親の帰宅だ。俺は小さく舌打ちする。
「なぁ、ほんといい加減にしてくれよ」
「あれ? 雷ちゃん怒ってる?」
四十代にもなって人生を舐め腐っている母親に対して、息子が怒ってくれるだけマシだろ。
そんな怒りをおくびに出さす、代わりに酔い冷ましの梅サイダーを出してやる。すると母の顔が険しくなった。
どうしてそんな変な顔をするんだ?
「また天音の家に行ったの?」
「ああ。良くしてくれるから」
「あのショタコン……」
天音、とは錦糸町に住むキャバ嬢のことだ。キャバ嬢、と言っても梅サイダーを手作りできるほど家庭的ではある不思議な女性ではあるが。
「もう、天音の家に行ったら駄目だよ。分かった?」
何だよ。それ。身勝手にも程があるだろ。
その言葉を無視して、また俺は食器洗いに戻った。




