人柱
その日、雨が振っていた。
濡れるアスファルトを俺は俯きながら歩いていた。
傘に打ち付けられる規則的な音は、時おりメロディーに聴こえる。だからかつい、好きなアーティストである久保田利伸の楽曲を口ずさんでしまった。
雨溜りをスニーカーは踏む。靴底が湿りを帯びた。
微風が吹いた。
だからか通りすがる女子高生から、甘い石鹸の匂いが香った。
顔を上げる。
石鹸の香りがした女子高生は、ステップを踏みながら駆けていた。
……なんだあれ? おかしな人だ。
首を傾げたあと、もう一度歩みだした。
□■□
俺の教室の机では、罵詈雑言が落書きされていた。
それを見て、「またか」と溜め息をついた。けれどもそんな心の傷付きを周囲に悟られぬように、無表情で着席する。
こういうことをされると心臓が破裂しそうなほど、痛む。
ただ、虐められる原因を作ったのは俺だ。だから、悪いのは俺だ。
机に頬杖をつく。窓の外を見た。
鬱陶しいぐらいに降る雨は、何度確認したって嫌なものだ。好きになれそうにはない。
あの日も、体育館コートの外では雨が降っていた。
バスケのスポーツ推薦で進学校に進学した俺は、周りから期待されていた。
この高校はインターハイ常連校で。部長の風上先輩が部のエースだった。
いつもの練習メニュー。学年ごとで部員を分けての練習試合。
その試合のなかで、ポイントガードに回っていた俺は、ボールを持っていた風上先輩をブロックしようとした――
その際に先輩に大きく衝突してしまう。先輩は床に体を打ち付けた。
「先輩!!」
病院に担ぎ込まれた。症状は筋肉断裂。
治りはするが、もう激しい運動は出来ない。
こうして、部長のスポーツ人生を俺は潰してしまったのだ……
それから、俺への虐めが始まった。
□■□
「おい、雷太。学食に行くぞ」
俺、雨霧雷太の名を呼んだのは涼宮拓真。入学したころ、同じクラスで、しかも隣席だった。だからか自然と話す機会があって、それからの友人だ。
「ほら、早く」
拓真は明るい笑みを浮かべた。
教室にいても仕方がない。迷惑なだけだろう。だから、誘ってくれたことに内心で感謝して学食に向かう。
いつも込み合う学食の席を、拓真はキープしてくれていたのだが、そこにはある女子高生がいた。
そいつは、朝、通学路ですれ違ったおかしな女子高生。
「あ? ああ、この子? 可愛いだろ。水菜河合さん。誘ったら一緒に昼食を食べてくれることになった」
なんだそりゃあ。お前はどこぞのプレイボーイか。ほいほいナンパしているんじゃねぇよ。
当の河合はカレーライスをただ、食べていた。こちらを一瞥もしない。
だから、もう一度思う。
おかしな女。




