知将の終着
ヴォイドが突き出した光のスピアが、帝国兵の胸を貫いた。
断末魔すら上げる間もなく、魂を宿した素体は崩れ落ちる。
スピアを振り下ろし、引き抜く。
「……やれやれ。儂が出ざるを得んか」
背後で低く、しかし確かな声が響いた。
ヴォイドは即座に距離を取る。
白髪の老人――ジェイド・マッカード。
左腕の腕輪に軽く指を触れ、周囲を一瞥する。
その仕草だけで、この場の配置と戦力を把握したことが、ヴォイドには分かった。
ジェイドは立て掛けてあったロングスタッフを手に取り、
魔法少女たちへ一度だけ視線を投げた。
「酷い事をするもんじゃな。年若い娘を、使い捨ての刃にするとは」
「自分たちの消耗を減らすのは当然だ」
ヴォイドは即答し、懐へと踏み込む。
腹部を抉るような一撃。
――だが、直撃はしない。
展開されたシールドが衝撃を逸らし、
ジェイドの身体は後方へ滑るように下がった。
「確かに、儂らも侵略者であろうな」
ジェイドは杖を地面に一度、軽く突く。
「だがの。現地の人間を騙し、“正義”を装う真似だけは、
したくはないわ」
地面から、空間から、無数の魔法陣が展開される。
「甘いことを言う……!」
ヴォイドは吐き捨てる。
「戦において情報操作など常道だろう!」
「否定はせんよ」
ジェイドは二度、杖を突いた。
「だが――
世界樹の“実”を分けてくれと、誠意をもって話した覚えはあるかの?」
ヴォイドは一瞬、言葉を失う。
「……構わん! アレを使え!」
魔法少女たちの中央に、蒼い光が集束する。
蒼の門で得た“武装”を模倣した歪な槍。
放たれた光が、ジェイドを呑み込んだ。
(勝った――)
そう確信した瞬間。
足元に広がる、巨大な魔法陣。
「……なに?」
半円状の結界が閉じ、逃走を封じる。
魔法少女たちは次々と膝をつき、変身が解除されていく。
「悪いがの」
煙の向こうから、ジェイドの声が響いた。
満身創痍の身体で、彼は立っていた。
「お主らは、二度と自由にはなれん」
左腕の腕輪が光る。
『自分たちの消耗を減らすのは当然だ』
ヴォイド自身の声が、空間に再生される。
「……最初から……?」
自由を奪われ始めた体で呆然と呟く。
「そうじゃ。最初からじゃ」
光が視界を閉ざしていく。
(若……どうか、ご健勝を)
次の瞬間、遠方で爆音が走った。
階段を駆けるアトラの足が、一瞬だけ止まる。
だが、振り返らない。
「……爺。長年の奉公、大義であった」
その声は、風に溶けて消えた。
ネックレスが、脈打つ。
ヒカリは思わず足を止め、大地を振り返った。
「ヒカリちゃん?」
かなでの声に、ヒカリは小さく息を吸い、呟く。
「……あの人、本当に……一人になっちゃった」
そして、再び前を向いた。
まだ、行かなければならない場所がある。




