――老人と少女
轟音が、空間を引き裂いた。
直線上に連続して走る爆発。
ジェイド謹製・連続爆雷が、世界樹へと続く障害を力任せに押し広げていく。
歪んだ空間の向こう、光の道が露わになった。
「陛下。露払いは済みました」
ジェイドは片膝をつき、深く一礼する。
「大義である」
皇帝アトラは威厳を崩さぬまま、ゆっくりと歩き出した。
妖精騎士が一体、跳躍して迫る。
だが次の瞬間、火球が唸りを上げ、空中で叩き落とされた。
アトラは一度も振り返らない。
「……爺、頼んだぞ」
それだけを告げ、光の道へと姿を消す。
その背を見送り、ジェイドの表情が変わった。
老賢者の顔から、戦場に立つ将軍の顔へ。
「皆の者!」
声が、戦場全体に響き渡る。
「今こそ最後の戦いじゃ!
二度と生きて地を踏むことは無いかもしれん!
それでも――帝国の誇りを胸に進め!」
応える鬨の声。
戦闘が、本格的に始まった。
一般兵の武器が閃く。
炎、雷、氷――魔石を内蔵した兵器が、次々と魔術を放つ。
そのたびに魔石には細かな亀裂が走り、
欠片が静かに、確実に失われていく。
有限の力。
時間との戦い。
その最中、兵士が駆け寄った。
「将軍! 背後より、白い少女が接近!」
ジェイドは、くつくつと笑った。
「通せ。無礼のないようにな」
やがて案内されてきたのは、ヒカリとかなでだった。
「すまんな、こんな場所で」
ジェイドは軽傷の手当てを受けながら、穏やかに声をかける。
「時間は取らせん」
そして、ヒカリを真っ直ぐに見つめた。
「……立花ヒカリ殿、じゃな」
「え……?」
「若……いや、陛下から聞いた」
目を細め、静かに頷く。
「良い目をしておる。
なるほど、若が后にと言うのも納得じゃ」
「――っ!?」
「え!? ヒカリちゃん、いつの間にそんな!?」
かなでが勢いよく振り向く。
「ち、違うよっ!!」
ヒカリは必死に首を振る。
ジェイドは大声で笑い、背を向けた。
「時間を取らせて済まなかった。
道は、こちらで開こう」
二歩進み、振り返らずに言う。
「……もし世界樹で、アトラとか言う若者に会ったら伝えてくれ。
滅んだ国のことなど忘れよ、と。
この世界で、一人の若者として生きよ、とな」
最後の連続爆雷が放たれ、
光の道が完全に開いた。
走り出すヒカリとかなでを、ジェイドは黙って見送る。
「……最後の爆雷でしたが」
兵士が問う。
ジェイドは答えない。
ただ、再び戦場へと歩み戻った。
その背中は、どこかひどく静かで、
そして揺るぎなかった。




