――山道に立つ人
白い光が、二人の足元を包み込んだ。
ヒカリとかなでは同時に変身を終え、夜明け前の山道を駆けていた。
森は息を潜めたように静まり返り、冷えた空気が肺の奥まで染み込む。吐く息は白く、足音だけがやけに大きく響いた。
世界樹への入口。
その存在を、ヒカリはもはや“予感”ではなく、確信として感じ取っていた。
――急がなきゃ。
だが、ヒカリはふいに足を止めた。
山道の先。
薄暗い木立の間に、ひとりの人影が立っている。
「……おばあ、ちゃん……?」
そこにいたのは、着物姿の祖母だった。
逃げる様子も、驚いた気配もない。ただ、最初からここで待っていたかのように、静かに立っている。
「行くのね?」
短い問い。
だがその声には、すべてを察した者の静かな覚悟があった。
ヒカリは一瞬、唇を噛みしめ――そして、はっきりと頷いた。
「……うん」
祖母は目を伏せ、わずかに寂しそうな、それでいて誇らしげな微笑みを浮かべた。
「そう……なら、生きて帰ることを最優先に考えなさい」
静かな言葉だった。
だが、それは命令よりも重かった。
「あなたたちには未来があるの。
……私たちの時代のように、私以外全滅、なんてことを二度と起こしてはいけない」
ヒカリの胸が、きゅっと締めつけられる。
だからこそ、彼女は明るく言った。
「行ってきます!」
逃げないために。
立ち止まらないために。
祖母はゆっくりと頷き、今度はかなでの方へ視線を向けた。
「……あなたは、ヒカリのお友達なのね」
「は、はい!」
かなでは反射的に背筋を伸ばす。
「この子のことを、お願いします。
……そして、あなた自身の命も、大切に」
そう言って、祖母は美しい所作で深く頭を下げた。
「えっ、あ、あの……っ」
「行こう、かなでちゃん!」
ヒカリが声をかける。
二人は再び走り出した。
背中に、祖母の視線を感じながら。
大切なものを守るために。
そして――生きて帰るために。




