それぞれの選択
かなでが振り向く。
ほのかも、ゆっくりと視線を上げた。
「最後の戦いが、始まる」
「多分……もう、止められない」
病室の音が、やけに大きく聞こえた。
ヒカリは続ける。
「私、行かなきゃいけない」
「今度は……逃げちゃ、だめだから」
間を置かず、かなでが立ち上がった。
「私も行くよ」
声は落ち着いていた。
懇願でも、衝動でもない。
「ヒカリが行くなら、一緒に行く」
「それが、私の選択」
ヒカリは一瞬、目を伏せる。
不安が胸をかすめた。
本当に、連れて行っていいのか。
守れるのか。
けれど――
隣に立つ温もりが、背中を支えた。
「……ありがとう」
それだけで、十分だった。
ほのかは、動かなかった。
ベッドの縁に置いた手が、わずかに震える。
指を軽く握り込み、その震えを抑える。
視線が、病室の出口へと向かう。
立ち上がろうとして――止まる。
行くべきか。
今の自分に、行く資格があるのか。
答えは、まだ出ない。
ヒカリは何も言わず、微笑んだ。
「無理しないで」
「身体、大事にしてね」
その言葉は、命令でも拒絶でもなかった。
“選択を残す”ための、距離だった。
ヒカリとかなでが並んで部屋を出ていく。
扉が閉まる音が、静かに響いた。
クロが、ほのかの横に立つ。
「……良いのか?」
問いは短く、責める色はなかった。
「大切な友人なのだろう」
ほのかは、しばらく黙っていた。
そして、低く息を吐く。
「……まだ、分からない」
それだけを、正直に答えた。
クロは何も言わず、窓の外を見た。
遠くで、風が揺れている。
ほのかの視線も、同じ方向へ向かう。
その目に、確かに――
消えかけていた光が、少しずつ戻り始めていた。




