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兆しの連鎖
最初に異変として語られたのは、小さな地震だった。
一日に何度も起こる、浅い揺れ。
棚の上の物が落ちるほどではない。
だが、人々は直感的に理解していた。
――回数が、増えている。
次に訪れたのは、異常な低温だった。
季節外れの冷え込み。
朝の息は白く、畑の土は凍り、夜明けは遅れていく。
そして――家畜が、死に始めた。
牛舎で、豚舎で、鶏舎で。
理由の分からない衰弱。
眠るように動かなくなる命。
ニュースは「原因調査中」と繰り返し、
専門家は「偶発的な自然現象」と説明する。
だが、世界は確実に壊れ始めていた。
その日、空は奇妙だった。
雲が、円を描くように避けている。
まるで、何かを中心に――。
空間が、裂けた。
蒼と白の狭間から、大地が姿を現す。
島のようであり、根の絡む台座のようでもある巨大な構造。
天を突くほどの巨樹。
枝は空を覆い、葉は光を湛え、
幹には二つの実が、静かに結ばれていた。
――世界樹。
ついにその姿が、
ヒカリたちの街の上空に顕現した。
人々は言葉を失い、
ただ立ち尽くして見上げる。
同時に、山が震える。
ヒカリの祖母が住む、あの山の頂。
そこに、光の扉が開いた。
世界樹へ至る、入口




