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皇帝の帰還
次元城。
白と蒼の光が交錯する回廊を抜け、アトラは執務区画へと戻ってきた。
外界の喧騒は遮断され、城内にはいつもの静寂が満ちている。
だがその静けさは、どこか張り詰めていた。
「――陛下」
背後から、落ち着いた声が響く。
振り返らずとも、誰のものかは分かっていた。
「ジェイドか」
白髪の老賢者は、杖に両手を添え、背筋を正して立っている。
その瞳だけが、わずかに人としての温度を宿していた。
「先程のお出かけ……いかがでしたかな」
「この世界の娘と、会われたのでしょう」
アトラは一瞬だけ視線を落とし、やがて静かに息を吐いた。
「……不思議な少女だった」
「私と、同じ方向を向いている。そう感じた」
そして、ほんのわずかに照れたような笑みを浮かべる。
「后として迎えたくなったほどだ」
ジェイドは驚かなかった。
むしろ、胸の奥に長く溜めていた何かが、静かにほどけていくのを感じていた。
「……そうですか」
「そうでありたいですな」
それは臣下としてではなく、
幼き日から皇帝を見守ってきた者としての言葉だった。




