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彼女の選んだ世界  作者: taka
第25章 失われゆく世界の名
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告白

 アルスは立ち止まり、ゆっくりと振り返る。


 「立花ヒカリ」


 呼ばれた名前に、ヒカリは顔を上げる。


 「私は、一度……君と会って、話をしてみたかった」


 その声は、これまでとは違っていた。

 穏やかだが、揺るぎがない。


 「私は、レムリア帝国皇帝――アトラだ」


 一瞬、意味が理解できなかった。


 だが、その佇まい、その視線が、

 それが真実であると、否応なく伝えていた。


 「一度、この世界の人々の暮らしを見たかった」


 「そして……世界樹に選ばれた君に、会いたかった」


 ヒカリの胸元で、ネックレスがわずかに温かくなる。

 光はしない。

 ただ、確かに“応えた”感触があった。


 アトラはそれに気づき、目を細める。


 「……やはり、君だったか」


 そして、穏やかに言った。


 「このような時でなければ」

 「君を、后として迎えたかった」


 ヒカリは戸惑いながら問い返す。


 「……それは、どういう意味ですか?」


 アトラは微笑み、首を振った。


 「もし、世界が違えば……という話だ」


 夕風が、二人の間を通り抜ける。


 「ありがとう」

 「君に出会えて、良かった」


 淡い光が、彼の足元に広がる。

 次の瞬間、アトラの姿は空間ごと静かに消えた。


 階段に、一人残されたヒカリは、しばらく動けなかった。


 街の灯りは変わらず、

 人々の生活も、昨日と同じように続いている。


 けれど確かに、

 今日という日は、二度と戻らない。


 それは、

 皇帝と少女が、ただ街を歩いただけの時間。


 ――最初で最後の、散歩だった。

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