告白
アルスは立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「立花ヒカリ」
呼ばれた名前に、ヒカリは顔を上げる。
「私は、一度……君と会って、話をしてみたかった」
その声は、これまでとは違っていた。
穏やかだが、揺るぎがない。
「私は、レムリア帝国皇帝――アトラだ」
一瞬、意味が理解できなかった。
だが、その佇まい、その視線が、
それが真実であると、否応なく伝えていた。
「一度、この世界の人々の暮らしを見たかった」
「そして……世界樹に選ばれた君に、会いたかった」
ヒカリの胸元で、ネックレスがわずかに温かくなる。
光はしない。
ただ、確かに“応えた”感触があった。
アトラはそれに気づき、目を細める。
「……やはり、君だったか」
そして、穏やかに言った。
「このような時でなければ」
「君を、后として迎えたかった」
ヒカリは戸惑いながら問い返す。
「……それは、どういう意味ですか?」
アトラは微笑み、首を振った。
「もし、世界が違えば……という話だ」
夕風が、二人の間を通り抜ける。
「ありがとう」
「君に出会えて、良かった」
淡い光が、彼の足元に広がる。
次の瞬間、アトラの姿は空間ごと静かに消えた。
階段に、一人残されたヒカリは、しばらく動けなかった。
街の灯りは変わらず、
人々の生活も、昨日と同じように続いている。
けれど確かに、
今日という日は、二度と戻らない。
それは、
皇帝と少女が、ただ街を歩いただけの時間。
――最初で最後の、散歩だった。




