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人が生きる場所
二人は、有名な場所には行かなかった。
公園で遊ぶ子どもたち。
夕方の買い物袋を提げた人々。
店先で談笑する常連客。
大きな幸福ではない。でも、大切な日常の風景。
アルスは、それらを一つひとつ、
まるで宝物を見るような眼差しで眺めていた。
「この街は……素晴らしいな」
ぽつりと、独り言のように呟く。
「人々が、安寧に生きている。
それがどれほど難しく、どれほど尊いことか……」
ヒカリは少し考えてから、素直に答えた。
「私も、この街が好きです」
「だから……知り合いの人たちが、
みんな幸福でいてほしいって思います」
「それだけなんですけど」
アルスは足を止め、ヒカリを見た。
そして、満足そうに微笑んだ。
「……そうか」
それ以上、言葉はいらなかった。
夕日が街を橙色に染める頃、
二人は町外れの階段へと辿り着く。
見下ろす街には、灯りが少しずつ点き始めていた。




