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「語られなかったもの」
その放送を、
静かな部屋で一人、ヒカリは見ていた。
画面の向こうでは、
“戦争”は起きていないことになっている。
胸元のネックレスが、かすかに脈を打つ。
それは嘘に反応しているのではない。
語られなかったものに、応えているのだ。
遠く、どこか。
妖精たちの集う場所で、低い声が交わされる。
「……よく抑えたな」
「人間は、与えられた物語を信じる」
「疑問は、時間が経てばノイズになる」
短い沈黙。
「だが――
あの“本物”だけは、誤魔化せない」
世界は今日も、平和だと報じられる。
だが確かに、
その裏側で戦争は起きていた。
語られず、
記録されず、
それでも確かに存在した戦争が。
――それが、
この世界の現実だった。




