病院は今日も回っている
病院の廊下は、異様なほど静かだった。
足音がやけに大きく響く。
消毒液の匂い。
白い壁、白い床、白い天井。
駆け込んできたほむらの横を、
看護師が一人、早足で通り過ぎていく。
点滴台を押しながら、無言で次の病室へ向かっていった。
別の看護師が、カルテを確認しながら歩いている。
「次の患者、準備お願いします」
淡々とした声。
それは“今日”の業務の一部だった。
ほのかの目に映ったのは、
器具を片付ける医師と、伏せられたベッド。
「……あの」
声が、震えた。
「ここに……ここに、運ばれてきた人は……」
医師は一瞬、目を伏せる。
それだけで、全てが分かってしまった。
「……手は、尽くしました」
それ以上の言葉はなかった。
その横で、看護師が静かにカーテンを閉める。
次の病室へ向かう足音が、遠ざかっていく。
世界は、何事もなかったかのように動いていた。
音が、消えた。
自分の体が、自分のものではなくなったような感覚。
足の力が抜け、ほのかはその場に崩れ落ちる。
誰も、振り向かない。
止まらない。
仕事は続く。
時間は進む。
涙が溢れる。
止めようとしても、止まらない。
時間は戻らない。
奇跡は起きない。
どれほど願っても、もう――
「……お父、さん……」
声にならない声が、床に落ちた。
近くで、ストレッチャーの車輪が鳴る。
ナースコールが短く響き、すぐに止む。
魔法少女である意味は、ここにはなかった。
ただ、一人の娘が、
父を失っただけだった。
――そして、世界は変わらず、進み続けていた。




