表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の選んだ世界  作者: taka
第21章 帰れなかった場所
78/81

病院は今日も回っている

病院の廊下は、異様なほど静かだった。


 足音がやけに大きく響く。

 消毒液の匂い。

 白い壁、白い床、白い天井。


 駆け込んできたほむらの横を、

 看護師が一人、早足で通り過ぎていく。

 点滴台を押しながら、無言で次の病室へ向かっていった。


 別の看護師が、カルテを確認しながら歩いている。

 「次の患者、準備お願いします」

 淡々とした声。

 それは“今日”の業務の一部だった。


 ほのかの目に映ったのは、

 器具を片付ける医師と、伏せられたベッド。


 「……あの」


 声が、震えた。


 「ここに……ここに、運ばれてきた人は……」


 医師は一瞬、目を伏せる。

 それだけで、全てが分かってしまった。


 「……手は、尽くしました」


 それ以上の言葉はなかった。


 その横で、看護師が静かにカーテンを閉める。

 次の病室へ向かう足音が、遠ざかっていく。


 世界は、何事もなかったかのように動いていた。




音が、消えた。


 自分の体が、自分のものではなくなったような感覚。

 足の力が抜け、ほのかはその場に崩れ落ちる。


 誰も、振り向かない。

 止まらない。

 仕事は続く。

 時間は進む。


 涙が溢れる。

 止めようとしても、止まらない。


 時間は戻らない。

 奇跡は起きない。

 どれほど願っても、もう――


 「……お父、さん……」


 声にならない声が、床に落ちた。


 近くで、ストレッチャーの車輪が鳴る。

 ナースコールが短く響き、すぐに止む。


 魔法少女である意味は、ここにはなかった。


 ただ、一人の娘が、

 父を失っただけだった。


 ――そして、世界は変わらず、進み続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ