波打ち際の三人
夕暮れの海岸。
風が止み、波音すら消えた世界の中で、ヒカリはかなで、ほのかと並んで立っていた。
「……最近、空の色、変わった気がしない?」
かなでの声は、ひどく小さい。
「妖精たち……なんだか、ピリピリしてるよね」
ほのかは空を見上げたまま、淡々と答える。
「時間が止まったみたい。
何かが終わって、始まる前の“間”――そんな感覚」
ヒカリは胸元のネックレスに触れた。
これまで空だった台座が、金色に輝いている。
心臓の鼓動のように、ゆっくりと光が脈動していた。
「……“世界樹が、命を渡す時”」
誰にも教えられていない言葉が、ヒカリの唇からこぼれる。
かなでとほのかが振り向く。
だがヒカリ自身も、その意味は分からなかった。
ただ――
身体の奥が、懐かしい痛みに似た何かで震えていた。
岩の上に、黒い影が降り立つ。
クロだった。
頭の傷は癒えきらず、足元の砂を赤く染めている。
「……ヒカリ。その光……世界が、何かを始めようとしてる」
掠れた声。
ヒカリは、小さく頷いた。
次の瞬間。
海が、凍りついたように静止した。
夕陽は沈みきらず、時が止まる。
そして――
空から、ひとつの光の粒が落ちる。
それは、世界樹の実の誕生を告げる、最初の雫だった。
世界は、息を潜めた。
それは終焉ではない。
次の命を育てるための、深い眠り。
光が遠い空を包み、やがて消えていく。
帝国も、妖精国も、魔法少女たちも――
誰一人、その中心には辿り着けなかった。
ただ、ヒカリの胸のネックレスだけが、微かに光り続けていた。
その鼓動は、
世界樹の実の脈動と、完全に同調している。
――そして、静寂の底で。
新たな命が、確かに息を始めた。
それは、再生を告げる最初の音。




