報せ
帝国・転移城。
薄明の空を映す広間の床に、血に染まった封書が静かに置かれていた。
それを見下ろす皇帝アトラの表情は、動かない。
怒りも、悲しみも、ただ深く沈殿させたまま――どこか遠くを見ていた。
「……グランが、命を賭して残した報告です」
白髪の老将――ジェイド・マッカードが、沈痛な声で告げる。
獅子将軍レムルは拳を握りしめ、言葉なく首を垂れた。
封書の中には、乱れた筆跡で短い文が並んでいた。
> 『青の門を発見。
> 浮かぶ大地に巨木あり。
> 白衣の少女たちが、祈る姿を見た。
> 我らが探していた“それ”は、確かに存在する』
最後の一行だけが滲み、読み取れない。
赤い指跡が紙に残り、血はすでに乾いていた。
アトラは、そっと黒い羽根を拾い上げる。
「彼は最後まで、帝国のために剣を握っていたのだな」
レムルが、わずかに唇を噛みしめながら頷いた。
「……第十位の名を、誇りに変えた男でした」
沈黙を破ったのはジェイドだった。
「陛下。これは“扉”の存在を示す決定的証拠です。
しかし――今動けば、妖精どもに察知されましょう」
アトラは羽根から視線を外さず、低く応じる。
「焦るな。……世界そのものが、すでに変わり始めている」
その瞬間。
羽根が淡く光を帯びた。
広間の空気が、遠い何かと呼応するように震える。
世界が――確かに、脈を打っていた。




