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彼女の選んだ世界  作者: taka
第19章 忠義の翼
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空を駆ける影

 ――クロウは、覚えている。


 空を飛べなかった頃。

 巣から突き落とされ、地面の冷たさだけを知った日。


 拾い上げたのは、大きな手だった。

 温かく、迷いのない手。


 ――グラン。


 声に出さずとも、分かる。

 今も、同じことを言っている。


 “飛べ”。


 クロウは翼を打った。

 天井の穴を抜け、暗い海へと突き進む。


 光が走る。

 岩片が舞い、槍が追う。


 左翼が裂け、熱が走る。

 それでも、止まらない。


 > 「お前は空の王だ、クロウ」


 その言葉だけで、十分だった。


 渦巻く海流へ、真っ直ぐ飛び込む。

 水の壁を越えた瞬間、世界が白く弾けた。


 ――転移。


 次に感じたのは、乾いた空気。


 玉座の間。

 金色の床に、黒い羽根が落ちる。


 クロウは力尽き、静かに伏した。


 足音。

 皇帝アトラが、封書と羽根を見つめる。


 「……グラン……?」


 その名が零れた瞬間――

 遠くで、空が鳴った。


 風が止まり、

 世界が、一瞬だけ呼吸を忘れる。


 ――忠義の翼は、使命を果たし、静かに散った。

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