崩落の果てに
轟音。
空間が裂ける衝撃に弾き飛ばされ、グランは地面へと叩きつけられた。
熱と圧力が背を焼き、肺の奥が潰れるように痛む。
――それでも、生きていた。
最後の瞬間、同行していた部下たちが張った防御結界が、彼の身体だけを包み込んだのだ。
光が砕け散る直前、耳に焼き付いた声がある。
> 「第十位騎士殿を守れ!」
次の瞬間、彼らは盾となり、壁となり、光の奔流に呑まれて消えた。
「……すまない……」
喉の奥から血が溢れ、言葉はほとんど形を成さなかった。
それでもグランは、剣を杖代わりにして立ち上がる。
そこは、崩れた主通路のさらに奥。
誰の記録にも残らぬ地下の回廊だった。
天井の裂け目から落ちる、わずかな光。
それに導かれるように進んだ先で、彼は足を止める。
――巨大な壁画。
空に浮かぶ大地。
その中央に根を張る、天を貫くほどの巨木。
青空、青葉、そして――根元で祈る白衣の少女たち。
「……世界樹……?」
無意識に、そう呟いていた。
さらに壁の端。
蔦の紋章と共に描かれた、青い扉。
古代文字が静かに刻まれている。
> “Aqua Porta”
「……青の門……」
その瞬間、背後の空気が凍った。
「見つけたぞ」
振り向けば、上級妖精騎士たち。
中央の女は壁画を一瞥し、嗤った。
「逃げたネズミを追ってきたら、ずいぶん面白いものに行き着いたじゃないか」
光の槍が、彼女の背後に浮かび上がる。
「もう――生きる理由もあるまい?」
返答の代わりに、グランは剣を逆手に持ち、天井へ突き立てた。
轟音。
岩盤が崩れ落ち、通路が塞がれる。
土煙の中、彼は狭い裂け目へ身を滑り込ませた。
血の跡を残しながら、這うようにして進む。
背中が焼ける。
腹部の傷は致命的だった。
――もう、長くはない。
光のほとんど届かぬ空間。
グランは壁に背を預け、荒い息を吐いた。
懐から取り出したのは、血に滲んだ一枚の紙。
「……クロウ」
名を呼ぶと、闇の奥から羽音がした。
黒いカラスが一羽、静かに降り立つ。
「頼む……相棒。
俺に代わって、これを陛下へ」
手紙を小さく折り、足に結びつける。
簡易の水避け結界を施し、さらに――胸元から転移用のブローチを外した。
それを、そっとクロウの首元へ。
クロウは短く鳴いた。
否定も、迷いもない。
グランは、かすかに笑った。
「……本当に、よく分かってる」
通路の奥から、足音が近づく。
追手だ。
グランは剣を握り直し、立ち上がる。
「行け、クロウ」
その声と同時に、翼が広がった。
崩れかけた天井の隙間を抜け、黒い影が夜へ溶けていく。




