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交わる決意
夜の喫茶店「エクリプス」。
照明は落とされ、店内にはコーヒーの香りだけが残っている。
時計の針の音が、やけに大きく聞こえた。
カウンターの奥。
簡易ベッドの上で、クロが横たわっていた。
包帯の隙間から、まだわずかに血が滲んでいる。
「……妖精の姿には、もう戻れない」
淡々とした声だった。
そこに悲壮感はない。
「それでも――守る」
クロはそう言って、ヒカリを見る。
「海へ行くなら、道案内はできる。
あの場所は……俺たちの記憶にも、深く刻まれてる」
ヒカリは一瞬だけ迷い、そして頷いた。
「……一緒に行こう」
その言葉に、クロは小さく目を閉じた。
夜風が窓を叩く。
遠くで、低く、長い海鳴りが響く。
それは警告ではなく、呼び声だった。
まるで――
“思い出せ”と、世界そのものが囁いているかのように。
月明かりの下、海は静かに揺れていた。
その深奥で、濃い青の光が、心臓のように脈打つ。
世界中の“流れ”が集う場所。
すべてが還る、収束点。
そして――
誰にも止められぬまま、
門は、確かに開き始めていた。




