記憶の光
室の隅。
ヒカリは壁際に立ったまま、ほのかと父の姿を見つめていた。
そのときだった。
胸元のネックレスが、かすかに熱を帯びる。
脈打つような光と同時に、胃の奥を締め付けられるような違和感が走った。
「……っ」
息を吸おうとしても、胸がうまく広がらない。
視界の輪郭が揺らぎ、音が遠のく。
次の瞬間――
――見知らぬ空。
――大地を縫うように走る、無数の光の流れ。
その中央に立つ、白衣の巫女。
声は響くのではなく、直接“理解”として流れ込んできた。
「大地の脈が乱れれば、人の命もまた乱れる。
枯れた葉は病となり、流れを塞ぐ。
だが――海の底、青の洞に宿る葉は、
命の揺らぎを鎮め、脈を正す」
それは説明ではなかった。
覚えよ、という命令でもない。
――思い出せ、という感覚。
光が途切れる。
ヒカリは膝に力が入らず、壁に手をついた。
指先が冷たい。
「……ヒカリ?」
ほのかの声が、現実を引き戻す。
ヒカリは胸元を押さえ、ゆっくりと呼吸を整えた。
心臓の鼓動が、少しずつ元の速さに戻っていく。
「……たぶん」
顔を上げる。
「治す方法……知ってる」
その声には、迷いがなかった。
“思いついた”のではない。
思い出したとしか言いようのない確信だった。
病院の屋上。
夕暮れの空が、街全体を金色に染めていた。
遠くでは車の走行音が重なり、救急車のサイレンがかすかに混じる。
世界は、何事もなかったかのように動き続けている。
フェンス越しに街を見下ろしながら、ヒカリは口を開いた。
「……“海の底”に、洞窟があるの。
その奥に、“青の葉”がある」
ほのかは視線を空へ向けたまま、わずかに目を細める。
「異変の中心、というわけね」
「うん。レイラインの流れが、全部そこに集まってる」
風がフェンスを鳴らし、金属音が短く響いた。
ほのかは、しばらく黙っていたが――次の瞬間、拳を握った。
「行くわ」
即答だった。
「危険だよ……!」
思わず声を上げるヒカリに、ほのかは静かに視線を向ける。
「分かってる。でも――見捨てられない」
それは正義感ではない。
責任感でも、使命感でもない。
**“そういう人間だから”**という、揺るがない選択だった。




