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彼女の選んだ世界  作者: taka
第17章 赤の戦線
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病院の廊下

白い蛍光灯が、無限に続くかのような廊下を照らしていた。

消毒薬の匂い。ゴム底の靴音。

すべてが整然としているのに、どこか現実味がない。


カーテンを引くと、ベッドの上に父が横たわっていた。

呼吸は浅く、胸の上下もかすかだ。

モニターの波形が、控えめに――けれど確かに、命を示して震えている。


「……お父さん」


声は、思っていたよりも弱かった。

喉の奥で、音が掠れる。


医師がカルテを閉じ、しばらく沈黙してから口を開いた。


「臓器や神経に、明確な異常は見られません」


言葉を選ぶように、一拍置く。


「ですが……生命活動を示す数値が、全体的に低下しています。

 循環や呼吸では説明できない。

 まるで――“生きる力”そのものが、少しずつ抜け落ちていくように見えるんです」


ほのかは、無意識に唇を噛みしめていた。


「……治療法は?」


「正直に言えば、分かりません」

医師は視線を落とす。

「同じ症例が、各地で急増しています。

 昨日まで健康だった人が、突然こうなる例が……」


その先は、語られなかった。

言葉にすれば、希望まで消えてしまうと分かっていたからだろう。


ほのかはベッドの脇に座り、父の手を握った。

冷たく、軽い。

それでも確かに――そこに在る。


「……大丈夫」


指先に、わずかに力を込める。


「絶対に、連れ戻すから」


それは祈りではなかった。

自分自身に刻み込むための、静かな誓いだった。

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