沈む光、集まる海
同時刻、世界各地で結界が崩れ落ちていった。
魔力の流れが地面を走り、都市の電力網のように光が集束していく。
それは暴走ではない。
混乱ですらない。
――世界中のエネルギーが、
ひとつの方向へ“引き寄せられている”。
ヒカリは学校の屋上で、立ち尽くしていた。
フェンス越しに見える空は澄み切っているのに、
空気の奥が、微かに軋んでいる。
風が髪を撫でる。
けれど、その風さえも、どこか重たい。
「……全部、海の方へ……?」
自分の声が、やけに遠く感じられた。
同じ光を、
ほのかとかなでも、別々の場所で見ていた。
空の色がわずかに変わり、
海の方角だけが、不自然に揺らいでいる。
まるで、世界そのものが呼吸を合わせているように。
その瞬間だった。
ヒカリの胸元で、ネックレスが静かに光を放つ。
強くも、眩しくもない。
ただ――確かな脈動。
巫女の声が、深く、静かに響いた。
「大地の血が、ひとつに集まる。
海の底に、門が開く前触れ……」
ヒカリは思わず胸元を押さえた。
耳を澄ます。
けれど、風の音も、街の喧騒も、今は届かない。
あるのはただ、
世界全体が、ゆっくりと“沈んでいく”ような感覚。
空には、もう光はない。
それでも――
遠い水平線の向こう、海の底だけが、白く、静かに脈打っている。
ヒカリは、その光から目を離さなかった。
理由は分からない。
けれど――
それが、
失われたものではなく、
“還ってくる何か”だと、心のどこかで感じていた。




