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朝の光の中で
朝。
窓の隙間から、やわらかな光が差し込んでいた。
カーテンの影が風に揺れ、
部屋の中をゆっくりと明るく染めていく。
目を開けた瞬間、胸の奥がわずかにざわめいた。
何か、夢を見ていた気がする。
けれど、思い出そうとすると、
霧みたいに輪郭が崩れていく。
――大きな樹。
――そこに、誰かがいたような……。
「……夢、だよね」
自分に言い聞かせるように呟く。
それでも、胸の奥には不思議なあたたかさが残っていた。
懐かしいような、切ないような感覚。
窓を開けると、朝の空気が流れ込んでくる。
鳥の声と、潮の香り。
いつも通りの朝。
なのに、空の青が、少しだけ違って見えた。
通学路の端にある古い石の祠の前で、足が止まる。
普段なら、気にも留めない場所。
祠の奥に、深い緑色の葉が落ちていた。
季節外れの、それ。
――昨日、夢で見た……?
胸が、どくんと脈打つ。
理由は分からない。
ただ、その場に長くいられなくて、
私は足早に歩き出した。
坂道を下る途中、
空の端が一瞬だけ、きらりと白く光った気がした。
見間違いかもしれない。
そう思う間に、朝の景色はすぐに元へ戻る。
「……気のせい、だよね」
小さく笑って、歩き続ける。
その笑顔の奥で、
胸の鼓動だけが、少しだけ速くなっていた。
何かが始まろうとしている――
そう思うには、まだ早すぎる朝だった。




