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妖精国 芽吹きの刻
純白の玉座の間。
磨かれた水晶の壁の向こうで、流動する魔力の光が静かに揺らめいていた。
それは風でも、鼓動でもない。
世界樹から溢れ出た“余剰”が、ここに集められている証だった。
玉座に座す妖精の女王は、静かに瞳を閉じたまま、騎士たちの報告を聞いている。
「北方ライン、掌握完了。
南方は抵抗が激しく、魔法少女部隊を追加投入しました」
報告は簡潔で、感情はない。
女王はゆっくりと目を開き、微笑んだ。
「よろしいわ。
すべては――“芽吹き”のために」
その声には、疑いも躊躇もなかった。
玉座の脇に控えていたヴォイドが、一歩前へ出る。
「女王陛下。
これ以上の干渉は、人間界の均衡を――」
言葉の途中で、女王が静かに遮った。
「構わないわ」
氷のように澄んだ声。
感情を削ぎ落とした断定だった。
「枯れゆく世界樹が、己の座標を晒すその時、
私たちは“新しい枝”を得る」
水晶壁の向こうで、魔力の流れがわずかに強まる。
「誰かが滅びるのなら――
それもまた、自然の選別でしょう」
沈黙。
ヴォイドは何も言わず、静かに頭を下げた。
命令に異を唱えることはない。
だが、その伏せた視線の奥で、
わずかな影が、確かに揺れていた。




