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彼女の選んだ世界  作者: taka
第15章 影の喫茶店
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闇の観測者

喫茶店の外。

建物の裏手、街灯の届かない路地裏で、

ひとつの小さな光が瞬いた。


光子で構成された監視妖精。

意思も感情も持たない、純粋な観測装置。


宙に静止したまま、

その光点は喫茶店エクリプスを正確に捉える。


『――裏切り者、発見』


機械的な判断。

迷いも、ためらいもない。


『座標固定。観測データ転送開始』


淡い光が糸を引くように空へ昇り、

夜の闇へと溶けていった。


まだ、ヒカリたちは知らない。

この一瞬が、

世界の均衡を静かに、しかし確実に崩し始めたことを。



クロは応急処置を受け、

カウンターの奥の簡易ベッドで横になっていた。


店内は再び静けさを取り戻している。

食器の触れ合う音もなく、

ただ壁掛け時計の針だけが、規則正しく時を刻んでいた。


ヒカリは、かなでの隣に腰を下ろし、

胸元のネックレスを両手で握りしめる。


「……私、何を見せられてるんだろう」


独り言のような呟き。


「……でも、目を逸らせないよね」


かなでは小さく答えた。

声は震えていたが、そこに逃げはなかった。


カウンターの向こうで、

ほのかが窓の外の闇を見つめている。


街の灯りは変わらない。

車の音も、遠くの笑い声も、いつも通りだ。


「もう戻れないわ」


静かな声だった。


「この世界は、あなたを見つけてしまった」


ヒカリは、ゆっくりと頷いた。

理由は分からない。

けれど、その言葉が“事実”だということだけは、理解できた。


コーヒーの香り。

夜の灯り。

変わらない日常の只中で、

確かに何かが始まってしまった。


喫茶店エクリプスの灯りは、まだ消えない。


それは――

影に堕ちた者たちが、再び集う場所になる予感を秘めて。

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