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彼女の選んだ世界  作者: taka
第15章 影の喫茶店
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血塗れの影

――カラン。


ドアベルが鳴った。


それと同時に、夜の冷たい空気が店内へと流れ込む。

ランプの灯がわずかに揺れ、

コーヒーの香りに、鉄の匂いが混じった。


最初に異変に気づいたのは、かなでだった。


「……クロ?」


扉の向こうに立っていたのは、

黒髪の青年。


額から血が流れ落ち、頬を伝い、

シャツの襟を深く赤く染めている。

足取りは不安定で、それでも――

迷わず、この店を選んで辿り着いたのが分かった。


「おい、誰か救急車を――」


客の声が上がるより早く、

ほのかが静かに立ち上がった。


「……動かないで」


その瞬間、世界が“止まった”。


音が消え、

空気が凍り、

客も、父も、時間の流れから切り離される。


動いているのは、ほのかだけだった。


彼女は青年のもとへ歩み寄り、

崩れ落ちかけた身体を支える。


「……また、あなたなのね」


「……夜凪、か……」


掠れた声。

青年――クロの皮膚の下で、淡い光が不規則に明滅していた。

それは傷ではなく、

“削ぎ落とされた存在そのもの”が漏れている光だった。


「どうして……そんな姿に」


「制裁だよ」


苦笑にもならない表情で、クロは息を吐く。


「……もう、“あの世界”には帰れない」


ほのかの指先が、わずかに強く青年を支える。


次の瞬間、時間が再び動き出した。


客たちは何も気づかない。

ただ、倒れ込んだ負傷者が現れた――

それだけの現実が、何事もなく続いている。


だが、ヒカリとかなでだけは違った。


空気の“ずれ”。

さっきまであったはずの何かが、確かに失われた感覚。


ヒカリは思わず立ち上がり、クロに近づく。


「……大丈夫、ですか?」


その声に反応して、クロの瞳がヒカリを捉えた。


深い奥で、懐かしい光が揺れる。

それは――

夢の中で見た、巫女の瞳と、どこか似ていた。


「……君、か」


「……え?」


「……やっと、会えた……」


理由も、意味も、説明はない。

それでも、その言葉はヒカリの胸に、静かに落ちた。


血が、床に一滴、また一滴と落ちていく。


ほのかが低く呟く。


「――これが、妖精の“代償”よ」


喫茶店という結界は、

この瞬間、確かにひび割れた。

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