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彼女の選んだ世界  作者: taka
第14章 代償と禁忌
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――制裁

クロが戻った時、

回廊の空気はすでに凍りついていた。


白霧の通路に、異様な静寂が張りついている。

その中央――

ヴォイドが立っていた。


彼の背後に、三つの光輪が浮かび上がる。

黄金でも、温もりでもない。

ただ“裁定”を象る無機質な輪。


中央から、声が落ちてきた。


〈妖精クロ。

 補給管制を欺き、許可なくブーストセルを外部へ配布。

 規約違反および反逆行為により――制裁を執行する〉


光が走った。


影が裂ける。

クロの身体を構成していた闇が引き剥がされ、

その隙間から、白い光が噴き出す。


まるで血のように。


クロは動かなかった。

ただ、静かに――笑った。


「……やっぱりな。

 これが、お前らの“正義”か」


次の瞬間、

無数の光の鎖が彼の身体を貫き、締め上げる。


妖精としての光子構造が、強制的に解体されていく。

計算された分解。

誤差のない破壊。


そして――

代わりに“肉体”が形成された。


骨。

筋。

皮膚。


血が流れた。


赤い液体が床に落ちる。

それは、かつて妖精には存在しなかったもの。

――感情を持った証のように。


〈これをもって、妖精クロの資格を剥奪。

 白霧回廊との接続を永久に断つ〉


声は淡々としていた。

哀悼も、迷いもない。


光が消える。

鎖が砕け、世界が裏返る。


落下。


次にクロが目を開けた時、

そこは――人間の街の片隅だった。


夜。

アスファルト。

遠くのネオン。


頭から血を流し、息は荒い。

身体は重く、視界が揺れる。


けれど、

その瞳の奥だけは、消えていなかった。


「……雪代かなで……」

掠れた声が、闇に溶ける。


「……夜凪ほのか……」


守るべき名を、ひとつずつ呼ぶ。


「……守ってやらなきゃ、な」


誰に命じられたわけでもない。

契約でも、計画でもない。


ただ、自分で選んだ言葉だった。


クロは、ふらつく足で歩き出す。


遠くに見える、あたたかな灯り。

人間の街に溶け込む、小さな光。


――喫茶店「エクリプス」。


そこへ向かって。


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