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夢の中の樹
夜の静けさの中で、
何かが囁いている気がした。
遠く、遠く。
波のように寄せては返す、言葉にならない音。
眠りの底で、私はその気配を追いかけていた。
――そして、気づけば、見たことのない場所に立っていた。
夜ではないのに、空には星が瞬いている。
地面は淡く光を帯び、風がやさしく頬を撫でた。
その先に、一本の巨大な樹が立っていた。
天に届くほど枝を広げ、
地を抱くように根を張るその姿は、
ただそこに在るだけで、胸の奥をざわつかせる。
「……大きい……」
声に出した瞬間、
なぜか胸が締めつけられる。
初めて見るはずなのに、
ずっと前から知っていた気がした。
あたたかさと、
理由の分からない痛みが、同時に込み上げる。
風が吹き抜けたとき、
幹の根元に、人影があることに気づいた。
白い衣をまとった、二つの影。
顔は見えない。
ただ、寄り添うように立つ姿だけが、妙に心に残った。
語り合っているようにも、
祈っているようにも見える。
私は、ただ立ち尽くしていた。
そのとき、空から一枚の葉が舞い落ちてきた。
ひらり、と。
静かに、音もなく。
それが地に触れた瞬間、
胸の奥で、何かがきしむような感覚が走った。
――怖くはない。
でも、なぜか、とても大切なものが
揺らいだ気がした。




