妖精の王座
深く、どこまでも暗い空間。
光も音も届かぬその中心で、ただ一輪の白い花が咲いていた。
妖精界――“永劫の庭”。
そこはあらゆる世界と繋がりながら、どの世界からも隔絶された場所。
花の根元に浮かぶ王座。
そこに座すのは、妖精の女王。
長く流れる銀の髪を揺らしながら、
冷ややかな微笑を浮かべていた。
「ヴォイド」
低く響く声。
金髪の妖精騎士は跪き、静かに頭を垂れる。
「女王陛下。命により、報告に参りました。」
「語りなさい。地上での“駒”たちの進捗を。」
ヴォイドはわずかに視線を伏せ、
淡々と状況を述べ始めた。
「帝国勢との交戦は継続中。
魔法少女たちは依然、我々の指示に従い活動しています。
ただし、対象E-17――雪代かなで。
任務違反を犯したため、契約を破棄しました。」
女王の唇がゆっくりと歪む。
「そう……“あの子”は感情に流されたのね。」
「はい。自己判断により行動、規律違反です。」
女王は右手を頬に添え、長い爪を軽く弾いた。
その音は氷を割るような冷たさを持って響く。
「適切な判断です、ヴォイド。
だが、別の報告も届いています。――“白の光”の件。」
ヴォイドの眉がわずかに動いた。
「はい。確認しております。
結界内で発生した高純度の自然波動体……
我々の観測網でも、あれほどの純度は前例がありません。」
女王は目を細める。
その瞳はまるで無数の世界を映し込む鏡のようだった。
「白の継承者……。
世界樹の力に直接干渉できる存在。
つまり、我らが“探していた実”に最も近い。」
隣に控える側近の妖精が一歩前へ出る。
「陛下。対象の回収を実施しますか?」
女王は一拍の沈黙ののち、柔らかく微笑んだ。
「ええ。放ってはおけないわ。
この世界で生まれた偶然の光が、
私たちの未来を左右するかもしれない。」
「はっ。」
側近が頭を下げる。
ヴォイドは視線を落としたまま、
微かに口を開いた。
「……対象の排除ではなく、回収命令、という解釈でよろしいでしょうか。」
女王の声が甘く響く。
「ええ。壊してしまうには惜しい子ですもの。
“果実”を得るためなら、器は無傷でなければ。」
「……了解しました。」
ヴォイドは頭を深く下げた。
だがその背中に、誰にも見えぬほどのわずかな影が差した。
「お前の忠誠、信じているわ。
――決して、情を持ってはならぬ。」
「承知しております。」
声に感情はない。
けれど、胸の奥に小さな亀裂が走った気がした。
退室するヴォイドの足音が遠ざかると、
女王は再び白い花へと視線を落とした。
花弁の奥で、金色の露がひとつ、静かに揺れる。
「……世界は、ようやく動き出したわね。」
その呟きが、永劫の庭に消えていった。




