帝国視点:報告と記録
厚い石壁に囲まれた次元城の一室。
外界との境界を守る魔法障壁が低く唸りを上げ、
窓の外では紫色の霧が、ゆっくりと流れていた。
グランは片膝をつき、
鎧の表面にこびりついた灰を静かに拭った。
それは昨夜の戦場で焼け焦げた、大地の色だった。
「……報告いたします。
結界内部にて、正体不明の白い光が発生しました。
その光は暴走エネルギーを吸収し、
結界を消失させた後、守護獣も姿を消しています。」
将軍レムルは腕を組んだまま、黙して聞いている。
その背後で、白衣の老人――ジェイド・マッカードが
小型の魔導計器に目を落とし、微かに口元を緩めた。
「……興味深い。
守護獣の消滅ではなく、“抑制”か。」
「はい。攻撃の痕跡は一切ありません。
まるで、光そのものが暴走を鎮めたようでした。」
ジェイドは顎に手を当て、低く唸る。
「白の輝き……純粋なる意思の具現化。
あれは“白の継承者”の兆候かもしれませんな。」
グランは眉を寄せた。
「……継承者、ですか?」
「この世界に存在する“真なる守護者”。
本来は巫女や世界樹と同質の存在です。
……まさか、形を変えて現れるとは。」
その会話を、玉座の奥で皇帝アトラは静かに聞いていた。
薄いカーテン越しに映るその影は若く、
だが声には、揺るぎない威厳が宿っている。
「……この世界には、我々の知らぬ“意思”がある。
だが、敵意は感じなかった。
むしろ――破壊を止めようとしていたように見える。」
ジェイドはゆっくりと頷いた。
「ならば尚更、観測対象として放置はできません。
彼女が“世界樹”に関わる存在ならば、
我々の希望にも、脅威にもなり得る。」
将軍レムルが一歩前へ進み出る。
「陛下。探索部隊の編成をお許しください。
例のエネルギーポイントは、暴走後に再び安定しています。
あの光の少女の痕跡も……まだ残っているはずです。」
しばし、沈黙。
やがて、アトラは小さく息を吐いた。
「……許可する。
ただし交戦は禁止だ。
接触の可能性が生じた場合は、まず“意志”を確認せよ。」
レムルは片膝をつき、騎士の礼を取る。
「御意。」
グランは立ち上がり、静かに口を開いた。
「……彼女は、敵ではないと思います。
あの時――守ろうとしていた。
誰かを……世界そのものを。」
ジェイドは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「理想論だな。
だが、若い者ほど“信じる力”を持つのも事実だ。」
その言葉を背に、グランは敬礼し、部屋を後にした。
肩の上のクロウが、低く一声鳴き、羽を震わせる。
「……クロウ。
お前も見ただろう、あの瞳を。」
カラスは答えない。
ただ、その言葉に呼応するように、低く鳴いた。
“白の少女”――
それが後に、
帝国の記録に刻まれる公式呼称となった。




