戦いの翌朝
風が、静かだった。
焼け焦げた地面の上を、白い光の粒が漂っている。
それはまるで、夜の名残が朝に溶けていくようだった。
ヒカリは、ゆっくりと目を開けた。
頭の奥がずきずきと痛む。
焦げた匂いと、土の冷たさ。
自分がどこにいるのか、一瞬わからなかった。
「……ここ、は……」
声が掠れて出る。
身体を起こすと、すぐ近くに倒れている少女の姿が目に入った。
淡い桃色の髪――雪代かなでだ。
その傍らには、黒い狼の妖精・クロが、彼女を庇うように横たわっている。
ヒカリは慌てて駆け寄った。
「かなでちゃん!? 大丈夫!?」
呼びかけに反応して、かなでがうっすらと目を開ける。
「……ヒカリ、ちゃん?」
「よかった……! 本当に、よかった……」
その瞬間、ヒカリの胸元で淡い光が揺れた。
手を当てると、そこには透明なハート型のダイヤが静かに輝いている。
そしてその下には、昨日拾ったネックレス。
いつの間にか二つはぴたりと重なり、
まるでひとつの存在のように、ゆっくりと脈打っていた。
「……守れたの、かな」
ヒカリは、かすれた声で呟く。
返事はない。
ただ、風だけが優しく頬を撫でていった。
少し離れた場所で、クロがゆっくりと立ち上がる。
「無事……みたいだな」
低い声に、ヒカリは振り向いた。
黒い毛並みが、朝の光を受けて淡くきらめいている。
「あなた……もしかして、妖精?」
「そう呼ばれてる」
短い答え。
だが、その声にはどこか、人の温度があった。
クロは周囲を一瞥する。
焦げた地面、散乱するクリスタルの破片、砕けた武器。
あの激闘の痕跡が、無惨なまま残されていた。
「……ほのかが線を引いた。
帝国の連中も、あれ以上は続けなかった」
「撤退……したってこと?」
クロは小さく頷く。
「お前が、あの光を放った後――
全部の反応が消えた。
……あれで、戦場は終わった」
ヒカリの胸が、再び強く脈打つ。
自分が何をしたのか、まだ理解できない。
ただ――
誰かを守りたいと、心から願ったことだけは、はっきりと覚えていた。
「……私、本当に……守れたのかな」
その問いに、クロは答えなかった。
ただ静かにヒカリの隣に座り、
昇り始めた朝日を見る。
灰色だった空が、ゆっくりと青へと戻っていく。
ヒカリは、手の中のネックレスを強く握りしめた。
それはもう、ただの装飾品ではない。
彼女自身と、過去から受け継がれた“意志”が宿る証。
そして――世界は、まだ何も知らない。
昨夜、ひとりの少女が
“真なる光”として目覚めたことを。




