断絶と継承
「……あれはもう、誰にも制御できない。」
時間が、ほんの一瞬だけ止まった。
ヒカリの前に立っていたのは、黒髪の少女。
銃を構え、戦場全体を冷静に見渡すその姿――夜凪ほのか。
「退いて。」
淡々とした声。感情の揺れは一切ない。
「ここから先は、命の保証がない。」
「ほのかさん……!」
ヒカリは思わず声を上げる。
「でも、止めなきゃいけないんです! あれは――」
踏み出そうとした、その瞬間。
空気が、わずかに揺れた。
ヒカリの横に、柔らかな光が落ちる。
桜色の粒子が弾け、その中心に少女の姿が現れた。
「ヒカリちゃん!」
雪代かなで。
息を切らしながらも、真っすぐヒカリを見つめている。
「一人で無理しちゃだめだよ!」
「……一緒に考えよう。どうすればいいか!」
その声に、ヒカリの胸が強く揺れた。
だが――
背後から、冷たい金色の光が降り立つ。
ヴォイド。
感情のない瞳で、かなでを見下ろしていた。
「任務に背いたな、雪代かなで。」
「……でも、ヒカリちゃんが――」
言い終わる前に、声が遮られる。
「命令を聞かぬ駒は、不要だ。」
躊躇の欠片もない宣告。
ヴォイドの指先が淡く光る。
かなでの胸元に刻まれていた魔法紋が、静かに輝き――
音もなく、崩れ落ちた。
「これで契約は破棄する。」
冷ややかな声が続く。
「以後、お前は無所属。
指揮系統から外れた存在に、用はない。」
かなでの顔から、血の気が引いた。
「待って……ヴォイド……!」
手を伸ばす。
だが彼は、一瞥すらくれない。
踵を返し、そのまま背を向けた。
その瞬間。
影の中から、低い足音が響く。
黒い狼が姿を現した。
――クロ。
「……なら、俺が引き継ぐ。」
その声は静かだが、揺らぎはない。
「先輩の代わりに。」
「この子の面倒は、俺が見る。」
「クロ……? あなた……」
かなでが息を呑む。
クロは一歩前に出て、彼女を庇うように立った。
「心配すんな。」
短く、しかしはっきりと言う。
「これは任務じゃない。俺の判断だ。」
ヴォイドは振り返らない。
ただ、冷たく言い放つ。
「好きにしろ。」
「どうせ――すぐに淘汰される。」
次の瞬間、金色の光がほどけ、
ヴォイドの姿は完全に消え去った。
残されたのは、沈黙。
白い崩壊の音が遠くで響く中、
ヒカリとかなでは、ただ立ち尽くしていた。
――世界が、決定的に変わった瞬間だった。




