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――静寂の打ち合わせ
夜の森の中、黒い影が音もなく揺れていた。
クロ――黒狼の姿をした妖精が、茂みの上で低く唸る。
その向かい、岩の上に腰を下ろした少女が一人。
黒髪を夜風に揺らしながら、冷静な瞳で地図を見つめていた。
「……今回の任務、対象は“帝国兵”。出現地点は湾岸区。数は不明。」
夜凪ほのかが、淡々と告げる。
クロの尾が一度、ゆるく揺れた。
「報酬ポイントは高いが、敵が複数だと危険だ。無理をするなよ」
「ふふ……心配してくれて、ありがとう」
ほのかは小さく笑って、夜空を見上げた。
その表情は柔らかく、それでいて――どこか寂しげでもあった。
クロはわずかに目を伏せ、そっぽを向く。
「当たり前のことだ。
契約者が死ねば、任務が終わる」
その言葉とは裏腹に、声はどこか震えているようだった。
彼が決して人の姿を取らない理由――
それは、罪悪感。
妖精が語れぬ真実を抱えたまま、
クロはその姿を晒すことを拒み続けている。
「……行こう、クロ」
「了解」
黒髪の少女と黒狼の影が、
闇に溶けるように静かに消えた。




