獅子の将、立つ
城の回廊に、重い足音が響いていた。
鋼鉄の靴が床を叩くたび、深紅のマントが揺れる。
レムル将軍。
帝国最強の武人にして、皇帝アトラの右腕。
彼はいつものように、静かに歩みを進めていた。
廊下の両脇には整列した兵士たちが並び、頭を垂れている。
その一人ひとりの胸には、先ほど戦死した第七班の徽章が、布で覆われていた。
レムルは足を止め、右拳を胸に当てる。
「――勇敢なる同胞に、敬礼」
低く響く声に合わせ、全兵が一斉に胸に手を当てた。
重く、静かな敬意が、回廊に満ちる。
やがてレムルは会議室に入る。
そこではすでに、ジェイドが報告の準備を整えていた。
机の上には、損壊したブルークリスタルの破片。
「また……一人、若い命が散ったか」
怒りではない。
その声は、深い哀しみを帯びていた。
ジェイドは目を閉じ、ゆっくりと頷く。
「ええ。ですが、彼の報告は確かでした。
敵の出現地点は、地表の“魔力脈”と一致しています。
……つまり、我々の探している“根源”が、近い可能性がある」
「それが真ならば、動かねばなるまい」
レムルは腕を組み、瞳を細めた。
「陛下の御命を受けた以上、
我らが血でその道を切り拓くのみだ。
この世界の者たちが、何を誤解していようと……」
ジェイドが、ふっと苦笑する。
「誤解、ですか。
……彼らは自分たちが“正義”だと信じている。
ですが、それを教えたのは誰なのか――
その答えを知るまでは、軽率に剣を振るうべきではありません」
レムルは一瞬、無言になり――
やがて、小さく息を吐いた。
「お前は変わらんな、ジェイド。
俺にはその理屈は難しすぎる。
だが……俺も、無駄に命を散らす戦いは好かぬ」
その言葉に、ジェイドが小さく笑みを返す。
「ならば、今回は同意見ですね」
扉の外から号令が響いた。
伝令の声が、廊下にこだまする。
「第一戦団、出撃準備完了!
将軍閣下のご指示を!」
レムルは立ち上がる。
その瞳には、迷いのない光が宿っていた。
「――命を懸けて戦った者の意志を、次に繋ぐ。
それが、我らの誇りだ」
重い扉が開き、光が差し込む。
その光を背に、獅子将軍は歩み出した。
戦場へ――
静かに、確かに。




