静寂の玉座
薄い光が、ゆるやかに揺れていた。
その奥――白い布で囲まれた玉座。
人影がひとつ、静かにそこにあった。
大理石の床に、ひとりの兵が膝をついている。
鎧は焦げ、肩からは血が滴り落ちていた。
それでも彼は、崩れ落ちそうな体を必死に支え、声を絞り出す。
「……レムリア第七調査班……帰還、いたしました……!」
掠れた声が、広間に響いた。
玉座の前に控える白衣の老人――ジェイド・マッカードが、一歩前に出る。
「……話せ。現地の報告を」
兵は震える腕で、胸に抱えていた黒い金属ケースを差し出した。
「帝国……調査拠点、魔力反応……異常高値……
“少女”の形をした……戦闘体を確認。
交戦の後、全隊……蒼結晶使用……
……敵、強力……!」
言い終えた瞬間、兵の体が傾ぐ。
鎧が床を叩く音が、静寂を裂いた。
「……っ」
ジェイドが駆け寄る。
だが、その瞳が見開かれた時――
兵士の唇は、かすかに笑っていた。
「報告……完了、しました……陛下……」
その言葉を最後に、兵の胸は動かなくなる。
広間を満たす沈黙。
やがて、玉座の向こうから静かな声が響いた。
「……よくやった」
若く、しかし深い響きを持つ声。
皇帝アトラの声だった。
「その者に、戦士の礼を」
玉座の左右に並ぶ騎士たちが、一斉に右手を胸に当て、膝をつく。
重い沈黙の中、全員が目を閉じた。
ジェイドも無言で兵の兜を外し、その胸元に手を置く。
「――彼は任務を果たした。
誇り高き、帝国の兵として」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
白布の向こうで、アトラの影がゆっくりと動く。
「ジェイド。報告内容を精査せよ。
敵の力の正体――
それが“自然”の産物か、“誰か”の創造物かを」
「はっ。解析を進めております。
……ただ、この世界の魔力には、不穏な歪みが見られます。
まるで――
“誰かが命の流れを弄っている”かのような」
一瞬、広間の空気が張り詰めた。
「……そうか」
アトラの声は低く落ちる。
怒りではなく、深い悲しみを湛えた静けさだった。
「レムル将軍を呼べ。
防衛線を整えよ。
……この世界を守るために戦う我らが、
無駄に命を散らすことのないように」
「御意」
兵たちが退出していく中、ジェイドは一度だけ振り返った。
白布の向こうで、アトラの影が、亡き兵の方角へと静かに手を向ける。
――祈るように。
広間を吹き抜ける風が、金の装飾を揺らした。
その光は、まるで涙のように見えた。




