囁き
――また、あの場所。
光の海。
無限に続くような白い空間の中、
一本の巨大な樹が、静かにそびえていた。
枝葉は天を覆い、幹は山のように太い。
けれど、その緑はどこか褪せて見える。
ヒカリは息を呑んだ。
夢だと分かっている。
それでも、肌に触れる風の感触も、光の温度も、あまりにもリアルだった。
――誰かが、泣いている。
女の人の声。
遠く、霞んでいる。
それなのに、不思議と意味だけは伝わってくる。
『……世界樹が……枯れてしまう……』
風が強く吹き、葉が舞い落ちる。
『誰かが……大地の命を……使っている……』
その声は、泣きながら何かを守ろうとしているようだった。
『このままでは……世界は……』
ヒカリは声を張り上げる。
「待って! あなたは誰なの!? どうすれば――」
けれど、声は届かない。
風に飲み込まれ、世界が歪む。
視界が暗転した。
すべてが闇に沈む。
――静寂。
目を開けると、木の天井が見えた。
朝の光が障子越しに差し込み、部屋を淡く照らしている。
「……夢?」
ゆっくりと身を起こす。
体が少し重い。
それでも、昨夜の出来事が頭から離れなかった。
――土蔵。
――ネックレス。
――祖母の声。
思わず、自分の手を見下ろす。
そこに、あった。
昨夜、夢の中で見たあのネックレス。
銀でも金でもない、見たことのない素材。
内側に光の粒を閉じ込めたように、淡く輝いている。
「……綺麗」
呟いた、その直後。
胸の奥がざわついた。
――何かが、足りない。
台座の中央。
そこに嵌め込まれていたはずの“何か”。
宝石でも石でもない、もっと別の“核”のようなもの。
それが抜け落ちた痕跡だけが、確かに残っていた。
「……これ……」
首を傾げたとき、障子の向こうから声がする。
「ヒカリ、朝ごはんですよ」
祖母の、静かな声。
「はーい……!」
ネックレスを握りしめ、ヒカリは返事をした。
その手の中で、宝飾の光が一瞬だけ強く瞬く。
気になる胸のざわめきを抱えたまま、
ヒカリは布団を整え、朝の支度を始めた。
――けれど、
昨日までと同じではない、そんな気がしていた。




