残響
――戦いが終わったあと。
夜風が、焦げた匂いを運んでいた。
結界は消え、街の明かりが戻ってきている。
けれど、かなでの胸の中はまだ真っ暗だった。
「……ねぇ、ヴォイド」
『報告は後だ。まずは帰還を――』
「どうしてあんなに戦わせたの?
どうして、あんな風に死ななきゃいけないの?」
かなでの声は震えていた。
矢を放った感触が、まだ指先に残っている。
自分の放った光が、あの帝国兵を貫いた。
あの人は、最後に魔物を倒した。
誰かを守るように。
ヴォイドの声は冷たく、それでいてわずかに苛立ちが混じっていた。
『彼らは敵だ。君の情けで救われる命ではない。』
「……本当に、敵なの?」
かなでの視線は地面の光の残滓を見つめていた。
帝国兵が消えた場所。そこにまだ、かすかに青い光が残っている気がした。
「だって、あの人……魔物を倒したよ。
人を、助けてた……!」
ヴォイドは短く沈黙し――
次に放った言葉は、静かで、それゆえに痛烈だった。
『……偶然だろう。
君は何か、確かな根拠でも持っているのか?』
かなでの喉が詰まる。
言葉にできない悔しさが胸を締めつけた。
「根拠なんて、そんなの……
でも、見たんだよ……!」
『見たものが真実とは限らない。
敵がどう動こうと、君が揺らげば戦いは乱れる。
感情を削ぎ落とした方が、結果的に多くを救える。
――その方が長く、生き残れる。効率的だろう?』
「……そんな言い方、ひどいよ……」
ヴォイドは答えなかった。
ただ、静かに背を向け、金色の光を残して夜空に消えた。
残されたかなでは、空を見上げたまま立ち尽くす。
「……私は、守りたかっただけなのに……」
――数時間後。
夜の街。
ヒカリは家に帰り、制服のままリビングのソファに腰を下ろしていた。
テレビの画面には、ニュース番組が流れている。
「本日も新たな魔法少女の姿が確認されました!
映像は市街地での戦闘の様子です!」
画面の中では、光の衣を纏った少女が笑顔で人々に手を振っていた。
その笑顔を見て、ヒカリは小さく息を漏らす。
「……また、増えたなぁ……」
ニュースキャスターは、まるでアイドルの話題のように明るい声で続ける。
「魔法少女は今や、希望の象徴!
街を守る彼女たちに、明日も注目です!」
けれど、ヒカリの胸の奥で何かがざわついていた。
笑顔の裏で、あの少女たちはどんな顔をしているのだろう――
そんな疑問が浮かぶ。
ふと、祖母の言葉が頭をよぎった。
――ヒカリ。世界の光は、いつか試される。
ヒカリはそっとテレビを消した。
リモコンの音が静かに響く。
窓の外には、薄雲の向こうでぼんやりと光る月。
そして――夜。
また、あの夢。
巨大な樹が立つ。
天に届くほどの大木は、前よりもどこか暗く見えた。
地面には、無数の落ち葉が散っている。
ヒカリは呆然と立ち尽くす。
風がないのに、ひとつ、またひとつと葉が落ちていく。
地に触れるたび、淡い光の粒になって消える。
そのたびに――
木の輝きが、ほんの少しずつ弱くなっていく。
「……やだ、これ……枯れちゃう……」
呟いた声は、誰にも届かない。
ただ、遠くで“何かが軋む音”だけが響いた。
――パキ……パキ……。
その音を聞いた瞬間、ヒカリの心臓が跳ねた。
次の瞬間、夢が砕けるように消え、彼女は布団の中で飛び起きた。
「……また、あの夢……」
窓の外には、静かな夜空。
けれど、ヒカリの胸の奥には、得体の知れない不安が広がっていた。




