交錯する戦場
放課後。
街は夕焼けに染まり、帰宅ラッシュで賑わっていた。
ヒカリとかなでは、並んで歩いていた。
「ねぇ、今日の宿題、やっぱ難しくない?」
「だよね。あの先生、説明早すぎるんだよ〜」
いつもの、他愛ない会話。
――そのとき。
金属を擦るような、低い響きが、
かなでの頭の奥に直接流れ込んできた。
『――かなで。緊急事態だ。座標を送信する』
ヴォイドの声。
冷たく、逃げ場のないテレパシー。
かなでは一瞬だけ足を止め、
すぐに笑顔を作った。
「ごめん、ヒカリちゃん。
ちょっと用事、思い出しちゃって」
「え? あ、うん……気をつけてね?」
手を振って別れた瞬間、
かなでは建物の陰に身を滑り込ませた。
淡い桜色の光が身体を包み、
制服が光の粒となって消える。
代わりに、
リボンと光の布で編まれた戦闘衣装が、
彼女の身体を覆った。
『現場は西地区第七ブロック。急げ』
「……了解」
地面を蹴る。
かなでの身体は宙に浮き、
街の明かりを越えて飛んだ。
現場の空気は、焦げていた。
瓦礫の間で、
紫色の光が不気味に揺らめいている。
そこにいたのは、
黒い装甲をまとう人影が五つ。
何かを、地面に打ち込んでいた。
「……あれは……?」
『帝国兵だ』
ヴォイドの声に、
わずかな緊張が混じる。
『撤退を――』
――その瞬間。
かなでの背後、
数十メートル離れたビルの陰で、
空気が歪んだ。
低く、不快な振動音。
「……え?」
次の瞬間、
アスファルトが内側から押し上げられるように爆ぜた。
黒い霧が噴き上がり、
裂けた影の隙間から、
異形の輪郭が這い出してくる。
――魔物。
悲鳴が上がる。
視線の先、
魔物の進行方向にいたのは、
血に染まった男性にすがりつく少女だった。
「お父さん……!
お父さん、目を開けて……!」
かなでの足が、止まる。
胸の奥が、焼けるように痛んだ。
「……いや……
そんなの、嫌だ……!」
弓を構えようとした、その瞬間。
帝国兵のひとりが、
紫色のクリスタルを地面に叩きつけた。
――ドン。
空間が反転する。
街の音が途切れ、
光の膜が周囲を覆った。
『……結界か』
そこに残ったのは、
魔物、帝国兵、
そして――かなでだけ。
別の兵士が、
青く輝く結晶を掲げる。
「我が帝国の名において、形を借りる――!」
身体が変質する。
装甲が膨張し、鉤爪が伸びる。
「……なに……これ……」
『強化帝国兵だ。
魔力増幅体――注意しろ』
咆哮。
空気が裂け、
魔物たちが一斉に動き出した。
「……やるしか、ない……」
かなでの弓が光を帯びる。
混沌とした戦場の中で、
彼女はただ、守るために動いた。
――それでも。
あの少女の泣き声だけが、
どうしても、頭から離れなかった。




