かなでの孤独
翌日、昼休み。
教室に差し込む光が、
かなでのノートを静かに照らしていた。
その横で、数人の男子がスマホを囲んで笑っている。
「昨日のニュース見た?」
「新しい魔法少女、ピンクのやつ」
「……服、派手すぎじゃね?」
その言葉が、
胸の奥に、鈍い音を立てて落ちる。
かなでの手が、ぴくりと止まった。
(……私のこと、だよね)
頭では分かっている。
名前は出ていない。
誰も、正体を知らない。
――それでも。
短いスカート。
背中の開いた衣装。
戦うために選ばれた姿。
ヴォイドは「機能的だ」と言った。
効率が良い、と。
でも今は、
恥ずかしさと、居心地の悪さだけが残っていた。
(どうして……私が……)
ノートに視線を落とし、
何も書いていないページを見つめる。
「かなでちゃん、大丈夫?」
ヒカリの声に、肩が跳ねた。
「えっ? う、うん!
ちょっと眠いだけ!」
慌てて笑う。
いつも通りの、明るい声。
――嘘だ。
本当は、全部話したい。
怖かったことも、
震えたことも、
泣きそうだったことも。
でも。
『正体の秘匿は義務だ』
『違反した場合、契約は無効となる』
昨夜の声が、
冷たい釘のように胸に残っている。
(……言えない)
ヒカリちゃんにだけは。
だって、あの子は――
きっと、悲しい顔をする。
放課後。
かなでは校門の前で、スマホを見つめていた。
〈目立ちすぎ〉
〈狙ってるだろ〉
画面を閉じても、言葉は消えない。
「……そんなつもり、ないのに」
金色の光が揺れ、ヴォイドが現れる。
『どうした。体調に異常はないか』
「……平気。ちょっと、疲れただけ」
『雑音を気にする必要はない』
『お前の役割は“守ること”だ』
「……ヴォイドは、
こういうの、平気なの?」
『私は任務のために存在している。
感情は考慮対象外だ』
その言葉が、
どうしようもなく遠かった。
「……もし私が、泣いても?」
一瞬の沈黙。
『必要であれば、行動修正は行う』
慰める、とは言わない。
その事実が、はっきり伝わる。
「……そっか」
かなでは小さく笑った。
声は、ほんの少しだけ震えていた。
光が消える。
夜空を見上げて、唇を噛みしめる。
――ヒカリちゃんにだけは、知られたくない。
――だって、あの子は、
私より先に壊れてしまいそうだから。




