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庭へ
女王は、ヒカリから視線を外した。
「話は終わりよ」
淡々とした声だった。
結論が出た会話に、これ以上の余韻は不要だと告げるように。
「ここで続きをする気はないわ。
自室で血を見る趣味はないの」
踵を返し、歩き出す。その背に迷いはない。
女王が指先を軽く振ると、壁の一部が音もなく開いた。
その向こうに広がっていたのは、白く整えられた庭だった。
「……外?」
かなでが思わず声を漏らす。
「ええ。少し体を動かしましょう」
まるで散歩にでも誘うような口調だった。
ヒカリは一歩、足を踏み出した瞬間、胸元に走る違和感に眉をひそめた。
――ネックレスが、脈打っている。
鼓動ではない。もっと荒く、切迫した感覚。
(……アトラ……?)
一瞬、呼吸が詰まる。
遠くで、何かが削られていく感覚。自分のものではないのに、はっきりと「命が削れている」と分かる。
女王は、その変化を見逃さなかった。
「……ふうん」
振り返らずに、そう呟く。
「随分と無茶をする王ね。
――本当に、王には向いていない」
庭へと続く光の中へ、女王は足を踏み入れた。
ヒカリはかなでと視線を交わす。言葉は要らなかった。
ここから先は、言葉ではなく、選択の世界だ。




